手洗いをしっかりしよう!Japaaan

永遠なる“武士の魂”!殉死に反対し戦国大名・宇喜多直家に忠告した老勇者のエピソード

永遠なる“武士の魂”!殉死に反対し戦国大名・宇喜多直家に忠告した老勇者のエピソード

死ぬ忠義より、活かす忠義を

花房氏は言いました。

「生者と死者は、それぞれ進む道が違います。そもそも死んでしまえば誰もが独り、どうして家臣たちを道連れにできるでしょうか。その上、御屋形様にお仕えしておる者はみな優秀ですから、御屋形様の死後に家督を継がれる若君のお役に立てるべきであり、そんな彼らを捨ててしまうようなことができるものですか」

【原文】
「人鬼(じん・き)途(みち)ヲ異(ことに)ス。冥漠(めいぼう)ノ中(うち)安(いづくん)ゾ臣僕(しんぼく)ヲ随(したが)ヘルヲ得(えん)ヤ。且(そのうえ)君ノ左右ノ臣良士ニ非(あらざる)ハナシ。如(もし)君萬歳(ばんぜい)ノ後ハコトヾク(ことごとく)是(これ)嗣君(しくん)の股肱耳目(ここうじぼく)タリ。豈(あに)之(これ)ヲ無用ノ地ニ棄(すて)ン乎(や)……」

つまり「ここにいる優秀な家臣たちは、あなたが死んだ後を継ぐ若君を補佐すべきであり、これから死んでいくあなたにつき合わせる訳には参りません!」という宣言に他なりません。

事実、他家でも優秀な人材が失われることを懸念して殉死を禁じていることが多々あり、花房氏の言い分は至極もっとも、と言えるでしょう。

「どうしても殉死させたいなら、坊主どもを……」武辺者の皮肉と矜持

しかし、理屈では解っていても、やっぱり寂しい死出の旅路。

そんな直家の胸中を察してか、花房氏は言葉を続けます。

「聞くところによれば、僧侶は死者を極楽浄土へ導いて下さるそうで……もし御屋形様が、どうしても『独りは寂しい!誰かあの世について来てくれなきゃヤダヤダ!』と仰るのであれば、備前の国じゅうから名立たる高僧を狩り集め、片っ端からブッ殺して冥途のお供をさせましょう

【原文】
「……臣聞ク沙門(しゃもん)ハ能(よ)ク死者ヲ導キ善處ニ赴(おもむか)シムト。若(も)シ必ズ君(きみ)從者(じゅうしゃ)有ランコトヲ要セバ。臣當(まさ)ニ老高僧ヲ國中ニ擇(えら)ビ殺シ以テ葬(そう)ニ殉ズベシ……」

僧侶はふだん戦場に出て血を流すことも、死を覚悟することもなく、それでいて武士より優遇されている者も少なくない。

常に戦場で生命を賭けて奉公する武士は、忠義ごっこのパフォーマンスで死んでいる暇などないんだよ。

だからこういう時くらい、あなたが日ごろ信心し、優遇している坊主どもを「役に立てて」やったらどうだ……そんな老勇者の皮肉と武士としての矜持が、これでもかと盛り込まれた台詞です。

ここまで言われてしまうと流石の直家も返す言葉がなく、殉死については何も言わないまま、その年の内に亡くなったそうです。

※参考文献:藤井懶斎『閑際筆記』江戸時代

4ページ目 受け継がれるべき武士の魂

 

RELATED 関連する記事