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とある武士が自分の腹を切り命懸けで守り抜いた血みどろの家系図「チケンマロカシ」とは?

とある武士が自分の腹を切り命懸けで守り抜いた血みどろの家系図「チケンマロカシ」とは?:3ページ目

何としても、家系図だけは!

「だから言ったのに……」

男は燃え盛る炎から逃げきれず、焼け死んでしまったのでしょう。

やがて火事もすっかり収まり、焼け跡の始末に家来たちが入って行きました。

さて、あの男はどこで死んでいるだろう。

あちこち片づけていると、果たして男の焼死体は、殿様の居間よりほど近い庭先で、真っ黒こげにうずくまっていました。

「これがあの男の亡骸か。可哀想に……」

【原文】「右の者の死骸なりとも見出し候様に。不憫の事に候」

供養してやろうと運び上げたところ、腹部から血が流れています。

「きっと、あまりの熱さに耐えかねて、もはやこれまでと自害したのだろう……」

と、その時です。男の腹部からボロボロ、ズルズルこぼれ落ちた内臓と一緒に、何やら巻物が出て来ました。

「……これは!」

巻物を検(あらた)めると、それこそ殿様が家屋敷や財宝よりも惜しんだ先祖代々の家系図です。

つまり、この男は燃え盛る炎の中、少しでも家系図が燃えないように自分の腹を掻っ捌き、その中にしまい込んでいたのです。

当然、巻物は血みどろですが、それでも焼けずに残すことが出来ました。

「いつぞ一命を御用に立つべしと……」

この時のためにこそ、男は平素の恥を忍び、文字通り懸命に奉公してきたのです。

以来、この相馬氏に伝わる家系図は「チケンマロカシ」あるいは「血系図」と呼ばれ、誰もが男の篤い忠義をもって「日本一の家系図」と称えたのでした。

※田代陣基『葉隠聞書』第十巻、六十九話より。

4ページ目 過去への感謝と、未来への責任

 

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