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【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第16話

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「何、これ・・・・・・」

みつは言葉を失い、空を眺めた。

凧の一つ一つに、びっしりと緻密な線で隙間なく絵柄が描き込まれている。

「おみつー!」

声の先を辿って下を見ると、岡本屋の前で、大勢の禿(かむろ)たちが凧を揚げており、その中央で綿入りの長褞袍(ながどてら)を着込んだ国芳が千切れんばかりに手を振っていた。

「おみつ!悪りい!遅くなっちまって!この凧を描くのに、三月もかかっちまった!」

「国芳はん・・・・・・!」

「こいつらと一緒に、凧揚げやろうぜ!早くこっち降りて来いよ。凧、まさかまだ捨ててねえよな!?」

「で、でも、一階できっと誰か見張ってるよ」

「そこから飛び降りりゃ良い!わっちが受け止めらア!」

国芳が大きな目をきらきらさせ、両手を広げた。

みつは意を決した。

慌てて部屋の隅に走り、柳行李を開き、底にしまってあった凧を引っ張り出した。

ちょうど一年前に国芳から貰った凧だ。

少しぎこちない武骨な九紋龍の絵が、みつの心を励ました。

苦手な白昼の光への恐怖も、飛び降りる恐怖も、全部あの男に委ねてみればいい。

国芳ならきっと、全部受け止めてくれる。

みつははだしのまま窓の桟を乗り越え、二階から思いっきり、外の世界へと飛び出した。

 

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