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【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第6話

【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第6話

長兵衛が大門の向こうに見えなくなった後、みつは振り返ってしばらく立ち止まり、茫然と桜を眺めた。

門脇の四郎兵衛会所から、三、四人の若い男衆が訝しむようにこちらを見ている。

逃げやしないかと見張っているのだ。

花魁と言えども、籠の中に飼われた女郎である事に変わりはない。

口では褒めそやしながらもどこか疑うような品物を見るような、そういう冷たい視線にももう慣れている。

小さなくちびるから嘆息が漏れた。

日が出る前に部屋に戻ろうと気怠い足を引きずるようにして歩き始めた時、

「みつ!」

振り返ると、大門の向こうに国芳が居た。

「国芳はん!」

国芳が大門をくぐって駆け寄った。

正月に会ってから、いつの間にか時が三月も過ぎていた。

「いやあ、すぐに見つけられると思ってたんだが、探すのにこんなに手間取るなんてな!まいったまいった」

頭を搔きつつ、

「でもやっと見つけた。めえに見せてえものがたくさんあんだ……!」

そう言って国芳は首に掛けた風呂敷包みを叩いた。

「付いて来て」

みつは会所の若い衆の目を盗むように短くそれだけ言い、ぱっと後ろを向いて駆け出した。目指すは例の京町裏通りの桐屋の行燈である。

アイキャッチ画像 文字加工、絵:筆者、浮世絵(一部ぼかし加工): 歌川国貞「あづまの花 江戸繪部類より北廓月の夜桜 」国立国会図書館http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2541121

 

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