[お江戸小説] ココロサク【6話】ピンチはチャンス!?
四月も終わりに近づいたかと思うと、暑くて汗ばむ日もしばしば。四月には夏初月という呼び名があるように、四月からが夏なんだ。
「もーえーぎーのかーやー」
ほら、どこからか風にのって蚊帳売りの声が聞こえてくる。蚊帳売りは声のいい人を雇うだけあって、透き通った美声に思わずうっとりしてしまう。早いところだと、三月末から蚊が出てくるからね。これから、蚊帳売りは繁盛して忙しくなるよ。
さて、仕事場の水茶屋・中村屋に到着!
「おや、今日のおりん、なんだかいつもに増してきれいだねぇ」
「旦那さん、なんでわかるんだい?」
「だって、肌がツヤツヤしてるよ。いつもより化粧も気合が入ってるような。じゃ、ちょっと厨房にいってくるよ」
いつものようにほんわかした旦那さんだけど、時々こうやって鋭いことを言うからビックリ。実は、旦那さんがいう通り、昨晩米のとぎ汁で顔の手入れをしたんだよね。このお手入れをすると、白玉のように色白になるっていうから。母さんのを拝借して、化粧もちょっとだけ。いつもはガサツな私だけど、ときには女らしくね。
どうしてって?
野暮なこと、聞くねぇ。そりゃ、お楽しみがあるからさ♪今日は、あの人と2人でごはんを食べにいく約束してるんだ。あの人は閉店時間頃、店にきてくれるって。いつも仕事が終わったらまっすぐ家に帰るからか「時には気分転換も必要だよ」って言ってくれたんだ。
どんなきっかけにせよ、あの人に逢えるのはこの上なく嬉しいよ。だから、今日は肌の手入れにしても化粧にしても気合いが入っているっていうわけ。
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