[お江戸小説] ココロサク 【4話】おりんの秘めた想い:3ページ目
「かあちゃん、かあちゃんが……。」
「どうしたの?」
「昨晩から、ずっと高熱で寝込んでるんだ。流行り病(※6)だったらどうしよう。」
薬は高いから手に入れるのはなかなか難しいし、頼りになる大家さんは不在だし、どうしたものかとみんなで相談していたら、
「どうしました?」
心地よい低音の声が耳に入ってくる。
「新八さん、おみつさんが高熱なんですって。でも、医者を呼ぶこともできな……」
私が全部言い終わらないうちに「ちょっと失礼します」と颯爽と家にあがり、顔色や脈拍を診る新八さんはまるでお医者さんのよう。こんなときに不謹慎かもしれないけど、その真剣な眼差しにぐっと心を引き寄せられてしまう。
「体調を崩してしまったようですね。伝染病ではないので、安心してください。今、薬を飲んでもらったので、もう少ししたら熱もひいてきますよ。」
「新八さん、ほんとに助かりました。」
「お役に立てて嬉しいです。以前御殿医(※7)だったもので、つい差し出がましいことをしてしまい、すみません……。」
五右衛門が、何か御礼をとしきりに言ったものの
「当たり前のことをしただけですから。」
といつものように会釈して家に戻る新八。
しばらくして昼九ツ(※9)になった頃。おみつと五右衛門の家近くに、煙管が落ちているのを見つけた。これは確か、新八さんの。
家に届けなきゃ。でも、なんだか、ドキドキする……。私、ますます、新八さんのことが好きになってるかも……。これって、したもい?(※9)。
(つづく)
※5 江戸の三男(えどのさんおとこ)……火消の頭(かしら)・力士・与力は、いい男のベスト3といわれていた。
※6 流行り病(はやりやまい)……伝染病のことで、風邪やインフルエンザ・はしか・痘瘡(天然痘)・コレラなど。当時の医療ではほとんどが治療できず、おまじないやお札にすがる人が多かった。
※7 御殿医……大名屋敷お抱えの医者。
※8 昼九ツ……昼12時
※9 したもい……下思い。誰にも明かしていない恋心。心に秘めている思い。
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