鶏の頭に、虎の背中や犬の足、蛇の舌に馬のたてがみ……様々な動物の要素が合体した、この奇妙な生き物はいったい何なのでしょうか? ちょっとグロテスクですが、まるで神話の中に登場する神獣のようにも見えます。
これは、アーティストのfeebeeさんが発表した新作の浮世絵! 画像ではわかりづらいですが、feebeeさんが描いた作品を、江戸時代と同じ浮世絵の制作技術で、現代の職人が一枚一枚和紙に摺った木版画なんです。2016年12月、伝統的な木版画技術の保存・継承に努めるアダチ伝統木版画技術保存財団の事業の一環として制作されました。
イラストレーターとして、また近年では現代美術のアーティストとして活躍中のfeebeeさん。ビビッドな色彩と流麗な描線による独自のネオジャパネスクスタイルの作品は、妖艶さや神秘性、内なる強さを感じさせ、若い世代の圧倒的な支持を得ています。shu uemuraやNIKEといった有名ブランドとのコラボやポスター制作、書籍の装画やスマートフォンの待ち受け画面用のイラスト(着せ替えテーマ)などなど、japaaanマガジンの読者は、至る所で彼女の作品を目にしているのではないでしょうか。2016年秋には、現代美術家・天明屋尚さんがキュレーションを手掛けるグループ展「TENGAI」の出品作家の一人として、ニューヨークのギャラリーで作品を発表し、現代美術の世界でも注目を集めています。
早速、今回発表されたこの不思議な浮世絵について、feebeeさんご本人にお話をうかがいました。
「今回、木版画制作のお話をいただいた際に、財団の方から、干支(えと)に関連する作品という提案がありました。私は以前に、十二支の動物たちを合成してひとつの生き物にした《交通安全ヲ守 十二支之図》という作品を描いているんですが、これは江戸時代の浮世絵《家内安全ヲ守 十二支之図》から着想を得ています。十二支すべての特徴を備えたおめでたい生き物として、十二支のキメラ(合成獣)のような生物が浮世絵の中に描かれているんです。浮世絵版画をつくるなら、このテーマで新作を描きたいと思いました。
《交通安全ヲ守 十二支之図》では、参照した浮世絵と同じように、鼠の顔と兎の耳をもった姿にしましたが、今回の作品《寿という獣 酉》では、酉年にちなんで、頭部に鶏を持ってきて、鳳凰のような極彩色の翼を描きました」
意外にも、この奇妙な生き物のルーツは江戸時代の浮世絵でした! 今回、feebeeさんが参照した浮世絵は、遠浪斎重光という江戸時代後期の浮世絵師が描いた《寿という獣》と呼ばれる作品で、歌川国芳の弟子の芳虎も、家内安全を守るとして、この十二支を合体した生き物を《家内安全ヲ守 十二支之図》で描いています。複数の浮世絵師が描いたこの画題、現代のアーティストであるfeebeeさんにとっては、どのような意味合いがあったのでしょうか?
「現代は、様々なイメージが溢れかえっていて、まったく新しいものを産み出すことは難しい時代だと思います。ですが、《寿という獣》のように、十二支という既存のイメージを組み合わせる場合、その組み合わせ方は人によっても様々で、新しい物が生まれてきます。この十二支のキメラ(合成獣)のような生物は、現代のものづくりにおいて重要な編集能力を量る興味深い画題だと思うんです。このテーマは、今後、時間をかけて取り組んでいきたいもののひとつです。
種々の要素がからみあいながら、あるときは特定の部分が大きな比重を占め、あるときには別の部分が増幅し、そしてその興亡が延々と繰り返され、また次のサイクルが巡ってくる……社会情勢や人生の、ある種の比喩として見ることもできるのではと思います。私が制作のテーマとしている「畏怖・生死・循環」にも通じるモチーフだと思いました」
十二支はまさに暦の循環。feebeeさんの制作テーマとも相性が良いですね。feebeeさんが次に描く十二支のキメラはどんな姿をしているんでしょうか。ぜひ今後も、このテーマの作品を発表していっていただきたいです。