ガチンコで皮肉りすぎっ!江戸時代の「贅沢禁止令」に反骨精神むき出しで挑んだ浮世絵師たち
享保の改革、寛政の改革とともに江戸時代の三大改革である「天保の改革」。老中・水野忠邦によって行われた政治改革で、改革は庶民の暮らしにまで及びます。
天保の改革では贅沢禁止、文化の統制によって当時庶民の娯楽であった歌舞伎や寄席などに制限がかけられました。浮世絵も贅沢禁止の対象になり、春画、歌舞伎役者絵、遊女、芸者などの美人画を描くことが禁止されます。
しかし、江戸時代の絵師たちは禁止と言われて黙って引っ込むような柔な人らではないのです。禁止令をなんとか回避しようと、あの手この手を使って絵を描き続けます。それも皮肉たっぷりに。。。
今回は天保の改革の贅沢禁止令にガチンコで挑んだ絵師たちの作品を紹介します。
歌川国芳「源頼光公館土蜘作妖怪図」
源頼光の土蜘蛛退治を描いているように見せかけて、実は天保の改革に対する皮肉たっぷり。源頼光が実は将軍・徳川家慶で、主君の危機に知らんぷりしている卜部季武が実は老中・水野忠邦。
後ろの妖怪にも皮肉がたっぷり込められていて、富くじが禁止された「富くじ妖怪」や、歯のないろくろ首(噺なし)などなどが描かれています。
喜多川歌麿「高名美人六家撰 辰巳路考」
こちらの喜多川歌麿の作品は一見すると禁止されていた芸者の美人画のように見えますが、実は芸者の名前を絵に置き換えているんです(判じ絵)。右上の小窓の龍、蛇、櫓、線香で「たつみろこう(芸者の名前)」と読ませています。
これも回避するというよりも皮肉たっぷりのような気もしますが、こういった作品によって判じ絵が盛り上がりを見せたとも言われています。
2016.11.9追記: この作品は天保の改革ではなく、寛政の改革下で美人画への名入れが禁止された時期の作品。読者さまからのご指摘ありがとうございます。
出典:浮世絵検索
歌川国芳「猫の百面相」
こちらの歌川国芳の猫作品も実は役者の似顔絵。国芳はこんな感じの作品をたくさん描いています。天保の改革は「戯画作品」が盛り上がるきっかけになったとも言えるかもしれません。
出典:中京テレビ
歌川豊国「工藤左衛門祐経」
明らかに役者を描いた作品ですが、作品の中には役者の名前は見当たらず、"今昔"という言葉を描いて「役者絵ではなく古事を描いたものですよ…」と宣言しているそうです。
出典:浮世絵を読む
藤川貞「妖怪・着飾」
以前Japaaanで紹介した妖怪・着飾。インドでは「美々獅子」、中国では「全盛蛇」、オランダでは「ハデスギ」「ヲゴルキ」と呼ばれる獣とされる妖怪で、習性は見栄っ張りで贅沢好きで、破産をもたらす「誠に恐ろしきけだもの」と説明されており、天保の改革の贅沢禁止を皮肉った妖怪と言われています。
歌川国芳「荷宝蔵壁のむだ書」
こちらは有名な歌川国芳の作品。役者絵が描けないのでただの落書きのていで描いたもの。この作品を描いた時には禁止令は緩んでいたそうなのですが、もう完全に回避策を遊びに転換して楽しんじゃってますね。
歌川国芳「亀喜妙々」
改革を完全にバカにしてるwww
これはカメを描いているように見えますが、実は役者絵です。カメの顔が人です。人面ガメ。
さらにカメの甲羅にはそれぞれの役者の家紋が描かれているんです。アイデア素晴らしすぎる!
出典:浮世絵検索
いかがでしたか?天保の改革が行われたとき、絵師たちは様々な工夫を凝らして規制を回避していました。
ですが、ご覧いただいたように回避しようというよりも皮肉ってやろう、遊んでやろうという意気込みたっぷり。そのため奉行所に呼び出されて注意を受けたり罰金刑などを受けたりした絵師は少なくなかったといいます。
江戸時代の絵師の中でもやはり歌川国芳は別格で、反骨精神たっぷりの絵を描き続け、何度も呼び出しをくらっていたそうですよ。