手洗いをしっかりしよう!Japaaan

福岡「博多座」がもたらす文化の息吹——“場”があるからこそ、新たな風物詩は生まれる

福岡「博多座」がもたらす文化の息吹——“場”があるからこそ、新たな風物詩は生まれる:2ページ目

「襲名」文化のある国、日本

日本の古典芸能の世界には、「襲名披露」という文化があります。

「襲名」とは、俳優や芸人が、先祖や父兄や師匠、あるいは他の先人の名前を受け継ぐことをいいます。これは古典芸能だけの風習にとどまりません。江戸時代には商人や大きな農家などでも「襲名」がありました。現在でも大相撲などで同じ名前を受け継ぐことがありますが、これも明確な「襲名」です。

古典芸能の「襲名」では、「襲名披露興行」が行われることが多くあります。この時の興行は、積み重ねられた歴史の深まりと、未来を輝かせるような新しい時代の始まりを意味しており、盛大なイベントとして盛り上がっていきます。

歌舞伎の襲名でいえば、襲名披露興行は、東京の歌舞伎座からはじまり、その後は大阪(大阪松竹座)、京都(南座)、名古屋(御園座)など全国の主要な歌舞伎興行舞台で公演が行われます。また年に一度の「こんぴら歌舞伎(香川県琴平町の「金丸座」)でも行われることがあります。さらに、全国巡演公演などで、全国津々浦々まで襲名の「御挨拶」に俳優たちは出向くわけです。

そして博多座も、この主要な舞台の一つに、今数えられています。

「場」がもたらす恩恵

今年の博多座六月公演は、令和7(2025)年5月からはじまった「尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎襲名披露・尾上丑之助改め六代目尾上菊之助襲名披露」の博多でのお目見え公演でした。

先ほどの「船乗り込み」は5月30日に行われ、襲名披露を迎える二人に加えて、市川団十郎など出演役者が顔を揃えて、船に乗り込みました。川沿いに集まった多くの人が、新しい菊五郎と菊之助の誕生を祝福しました。(参照: 博多座)

博多座では、開場以来、その時々の歌舞伎の話題作の上演はもちろん、平成12(2000)年の十五代目片岡仁左衛門を皮切りに、十代目坂東三津五郎、十一代目市川海老蔵、四代目坂田藤十郎、十八代目中村勘三郎、十三代目市川團十郎、十代目松本幸四郎…と、幾多の襲名披露が行われてきました。

博多座の存在がなければ、襲名披露が九州の地で行われることはなかったわけです。

襲名披露という華やかな祝祭行事が九州でも行われることは、新しい歌舞伎俳優の名前が全国的に広がることを意味します。それが歌舞伎や芝居文化の浸透にもつながっていくのです。

それ以上に、襲名披露があることによって、先ほどの「船乗り込み」などの新しいイベントが企画されます。これが続いていけば、文字通り、街の風物詩にもなります。

興行を受け入れる「場」があってこそ、風物詩が生まれる土壌が生まれる。ひとつの劇場が街に文化を生み出していく、博多座はこの事実を証明する象徴のような存在なのです。

※関連記事:

『国宝』公開から1年…今こそ考えてみる「歌舞伎座」の価値とは?雰囲気を纏った歌舞伎の殿堂

かつての東京メトロ「東銀座」駅3番出口。地上へと向かう細い階段を登り、外の景色が見えた時、真っ先に目に飛び込んでくる歌舞伎座の姿…歌舞伎座に行くたび、この瞬間に立ち会うのが好きでした。…

国立劇場の不在は喪失か、それとも好機か?閉場で見えた“古典芸能”の新たな可能性と未来

当たり前のようにそこにあった場所が、突然なくなる。それは、ただ建物が使えなくなるという話ではありません。そこに通う人、舞台に立つ人、いつかその場所を目指してきた人にとって、記憶や目標の一部が宙に浮…

映画『国宝』の舞台・上方歌舞伎とは?大阪松竹座存続の裏で問われる未来

歌舞伎俳優の生き様を描き、今なおロングランヒットを続ける映画『国宝』。ご覧になった方ならお分かりかと思うが、この作品の登場人物たちは、基本的に関西弁である。そう、この作品の舞台は関西、すなわち「上…
 

RELATED 関連する記事