『べらぼう』裏切り連発のどん底回…大切な期待や夢を失った蔦重・歌麿・定信の心情を考察【前編】:2ページ目
突然、周囲の裏切りによりどん底に落ちた定信
ドラマ「べらぼう」では、“立場は違えども似た者同士として、表裏一体に描かれている”松平定信と蔦屋重三郎。今回は、二人とも同時に自分たちが想像もしていなかった(予兆に気がついていなかった)「裏切り」でどん底に落ちてしまいました。
定信は、史実では“周囲から疎んじられ失脚”したといわれていますが、ドラマでは、よりあからさまに裏切りられ嘲笑の的になった場面が描かれました。
江戸城に登城する前、「今日は大老を申しつかる」と、喜びでキラキラ輝いていた定信。ずっと仕えてきた水野為長(園田翔太)も「大権現様も殿こそがふさわしいと…」と嬉しそうです。
喜びが爆発しそうな気持ちを引き締めつつ、すっと膝を折り屈んで水野の肩に手を置き「参る」という定信には、胸にぐっと来るものがありました。味方が少ない定信の水野に対する感謝が込められているいい場面でしたが、 “壮大な前振り”の予感も。
徳川家斉(城桧吏)との密談で、将軍補佐と老中の兼任が負担になっていることを理由に、両方の職を解いてもらい、代わりに大老職につくはずだった定信。(これも罠の匂いがしていましたが)。
ところが、家斉は「役目を解く」の言葉に続き「大老職を申しつける」ではなく、まさかの「これよりは政には関わらず、ゆるりと休むがよい」と申し渡したのでした。配下の、松平信明(福山翔大)や本多忠籌(矢島健一)もグルになり、厄介払いをするような追い討ち発言をします。
突然の裏切りに顔つきが変わる定信。さらに、一橋治済(生田斗真)に「ご苦労であった。ささ、下城されよ、心おきなく願いを叶えよ」と屈辱的な言葉を告げられます。よくもここまで人をコケにできるものと感心するほど、いかにも治済らしい侮辱パフォーマンス。憤然と席を立った定信の背中を、皆の嘲笑の声が追いかけていきます。
「嵌められて墜ちていく人間を、嵌めた皆が顔を見合わせて嘲笑する」。
「べらぼう」は、天国から地獄に突き落とす脚本、現代の事象とリンクする脚本で評判ですが、今回は、この場面に現代にも通じる人間のいやらしさを感じました。倹約政策や俺こそ正義的な定信にうんざりしていた視聴者も、これには同情を禁じ得なかったのではないでしょうか。
