『べらぼう』闇堕ち寸前の蔦重を救った鶴屋と北尾重政──急転直下する森下脚本の今後の行方は?【後編】:2ページ目
さっそうと人肌脱ぐ蔦重とは一番長い付き合いになる北尾重政
ここで人肌脱いだのが、北尾重政(橋本淳)です。皆が興奮して激昂する中、ひとり冷静に(いつもですが)皆の話を聞いていましたが、「さてと、助け舟をだすかね」という感じで動きます。
北尾重政自身も才能に溢れる絵師なのですが、面倒見がよくとにかく北尾一門の弟子は多い。いつもごきげんで精神的に安定している。そしてたくさんのクリエーターを育てているので先見の明がある。
そんな北尾重政が、いつものように片膝立てたいなせな江戸っ子という感じで「さてと、いきますか」と立ち上がる場面は、かっこよかったですね。なかなか、粋な人です。
「なにかできることはあるかい」と蔦重に申し出ます。北尾重政は蔦重がまだかけだしの出版人だったころから助け、生涯に渡り一番長く深い付き合があった絵師です。
鶴屋の仕切りと北尾重政の助け舟で場はまとまります。
いざという時に、かっこよく蔦重に助け舟を出す。そんな師匠・北尾重政の背中を見つめつつ「自分さえよければいいのかよ。自分の前に先人がいたからこそ自分は自由に仕事できてんだろうがよ」と蔦重に言われた言葉を思い出す政演も、この師匠の背中に守られて来たという事実を実感したのでしょう。
「俺、帰って草稿かきますね」と言います。「おねがいします。政演先生」と頭を下げる蔦重。このやりとりもよかった。
さらに、ひさしぶりに登場した、鱗の旦那こと鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)の「またあんじものを考えねえとな!」の声がけに蔦重がうれしそうにするシーンもよかった。
昔から、この二人は、“本のアイデアを出し合うのが楽しくってたまらない”そんな表情をするのですが、それが久々に見れた胸熱シーンでした。
今回は、鶴屋の冷静な仕切り方、北尾重政の漢気、それに感銘した政演の決断、鱗の旦那の助け舟は、かなり見どころだったと思います。皆、蔦重の暴走に腹は立てたものの、蔦重の瞬発力・熱い気持ち・行動力で助けられたこともあった……ということを思い出したのでしょう。
そして、地本屋総出で、分厚い草案を次々とお上に持ち込むシーンは面白かった。
特に、鱗の旦那が「お指図を」といいつつ、分厚い草案を提出してから、ニヤリと口元で笑うところは、さすが!一度お縄になっているだけに、肝が座っている。
「たかがお上のくせに。本作りをやめさせるなんざ、やぼなこと言いやがって」という思いも伝わってきます。
