『べらぼう』ブチギレる蔦重、暴走する定信…実は”表裏一体”な二人が守ろうとしているものは?【前編】:4ページ目
面白きゃいいという政演にブチギレた蔦重
蔦重は鶴屋喜右衛門(風間俊介)から、政演が『心学早染艸』という“教訓本”を、大和田安兵衛という地本屋から出したことを教えられます。一人の男の中に「善玉」と「悪玉」がいて常にそれが争うのですが、最後に「善玉が勝つ」という話。
まるで定信の政策をヨイショするような内容で、「これじゃあ、ふんどしをかついでいるようなもんだ」と激怒して、吉原で遊んでいる政演のもとに殴り込みをかける蔦重。
「面白けりゃいいんじゃねぇですかね!面白ぇことこそ、黄表紙にはでぇじなんじゃねぇですかね。ふんどし担いでるとか担いでねぇとかよりも。」と、言い返す政演。面白おかしい戯作を描きたくてたまらない、そんな政演の気持ちもわからないでもないのですが。
けれども、「書を持って世に抗う」ことに決めた蔦重は「おもしろきゃあ、ふんどしを担いだ内容でも構わない!」などと思えるはずもない。頭ごなしに「何度いやわかるんだよ!」と叱りつけ、政演の頭をはたく蔦重。
暴力はよろしくないのですが、けれども「戯け者はふんどしに抗っていかねぇと、一つも戯けられねぇ世になっちまうんだよ!」という言葉には本当に同感でした。
間違った権力の暴走を黙って傍観すると、どんどんエスカレートしてより厳しい統制になり世の中は狂っていく。
「面白きゃあいい」ものですら作れなくなることも。だから抗って声はあげなければならない……この危機感は、やはり名プロデューサー蔦屋重三郎ならではの感覚でしょう。けれど「俺、蔦重さんとこでは、一切書かねえっす!という政演。
「いい度胸だな。日本橋を敵に回して書いていけると思うなよ。」蔦重は、とうとう「おいおい!おめえさんが、それをいっちゃあ〜終めえよ」なセリフを吐いてしまいました。
日本橋から「吉原もの」と下げずまれながら、持ち前の発想やコミュ力でここまでのし上がってきた蔦重がこのセリフを言ってしまうのは驚きでしたが、ヴィラン化した蔦重は新鮮でした。明るくて調子のいい名プロデューサーの顔付きが豹変するところは、横浜流星さんは、やはり上手いですね。
「一つも戯けられねぇ世にしたくない。春町のような犠牲を出したくない」そんな蔦重の気持ちは痛いほどわかります。けれど、エキサイトするあまりに定信同様に間違った方向に足を踏み入れて行きそう。
ここで、蔦重を助けたのが、かつての敵で今は大きな味方鶴屋喜右衛門(風間俊介)。そして、蔦重がまだ駆け出し出版人の頃から力になってくれていた北尾重政(橋本淳)だったのです。
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