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『べらぼう』ブチギレる蔦重、暴走する定信…実は”表裏一体”な二人が守ろうとしているものは?【前編】

『べらぼう』ブチギレる蔦重、暴走する定信…実は”表裏一体”な二人が守ろうとしているものは?【前編】:2ページ目

立場は違えども苦しむ二人

前回、蔦重は薄暗い自室で春町の遺書を読み返し涙していました。「また大切な人を守れなかった」という忸怩たる思いで、胸が潰れそうだったでしょう。

定信も一人部屋で春町の『鸚鵡返文武二道』を手に取り読み返していました。一度激怒して破ったのに、本は綴じ直してありました。大好きだった“推し”を死に追い込んでしまった後悔から、自分で丁寧に修復したのでしょう。

「戯ければ、腹を切られねばならぬ世とは、一体誰を幸せにするのか。」と春町の自死を伝えた、小島松平家の主君・松平信義(林家正蔵)の言葉が脳裏に蘇っていたことと思います。

蔦重の後悔と定信の後悔。立場は違えども苦しみは同じ。けれども、大きく異なるのは蔦重の隣には、妻・てい(橋本愛)が寄り添っていたこと。

本の出版を「自分も止めなかった」と言い、自分も同罪であると伝えます。だから、あなただけの責任ではない…と。

それに対し、定信の部屋はがらんと広く心配してくれる家臣も友人も家族もいない。独りの後ろ姿が、孤独を鮮やかに浮き彫りにしていて、切ないものがありました。

“間違い”ではないが己の正しさを証明する暴走

さらに質素倹約に突き進むことこそ責務とばかりに暴走する定信を心配した徳川治貞(高橋秀樹)は、「急ぎすぎると人はその変化についてこられぬのではないか?」と諭します。

その言葉に「世は思うがままには動かぬものと、諌言した者を私は腹を切らせてしまいました…」と本音を漏らし声を震わせる定信。自分への「諌言」だとは気がついていたのですね。

けれども、自分の正しさに確固たる自信を持つ定信は、後悔や孤独を抱えたまま、我が道を突き進むしかありません。

そんな、幕府の処罰を恐れ、武士の戯作者は江戸を去り、クリエーターは筆を取るのを躊躇する状態に。みな倹約、倹約で本も買わなくなった。“これじゃあ、商売あがったりで黄表紙本は今の厳しいご時世に合わない”と地本問屋たちも意気消沈してしまいます。

そんなメガティブなムードをぶち破ろうと「お武家様(のクリエーター)が難しいなら町方の先生に頑張ってもらいましょう」という蔦重。

「書を持って世に抗う」という信念、庶民からエンタメを奪い“ただ働くだけ”を押し付ける、くそみたいな世の中にしてたまるかという正義感、春町の無念をはらしたい……さまざまな思いが蔦重を包み込み、彼もまた「自分は間違っていない!」と暴走していきます。

3ページ目 倹約ばかりの政策は弱者を追い詰めていく

 

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