『べらぼう』ブチギレる蔦重、暴走する定信…実は”表裏一体”な二人が守ろうとしているものは?【前編】:3ページ目
倹約ばかりの政策は弱者を追い詰めていく
「遊ぶ場所があるから、人はそこで金を使う。だったら遊ぶ場所を壊せばいい」と、意気込む定信は「中洲新地」を取り壊しに。そのせいで、岡場所の女郎たちがどっと吉原に流れ込み、道端で安値で体を売る人も増えました。
「このままじゃあ吉原はただの大きな岡場所。でかいだけの地獄になっちまうよ」と嘆く大黒屋の女将・りつ(安達祐実)。
崩壊の一途を辿りそうな吉原の状況を目の当たりにした蔦重は、吉原を守るためにも幕府に逆らい「豪華絢爛な女郎を豪華絢爛に描く」ことで、吉原の魅力をアピールする作戦を立てます。
倹約をおちょくる本を、歌麿や北尾政演に依頼した蔦重ですが、ていは「世をよくしたい。その志はわかりますが、少々己れを高く見積もりすぎてはないでしょうか!」と大反対します。
けれど、保身のために無難な本を出すのは恥ずべきことと、自死した春町に申し訳ないと言い返す蔦重に、春町の本意は「蔦重や仲間たちに累が及ばないと考えたのだ」とていは反発。
ていの言っていることは確かに「正論」です。耕書堂という店や従業員、夫・蔦重、クリエーターたちをお上の厳しい目から守りたいという思いは、女主人として当然でしょう。
けれども、子供の時から女郎たちを間近で見て育った蔦重とていとでは、吉原に対する思いは異なります。蔦重は、花魁だったのに病で河岸女郎に身をやつし、亡くなって投げ込み寺に放り投げられた朝顔(愛希れいか)の最期は忘れられないはず。
幼馴染の愛する瀬川(小芝風花)に「吉原をいいところにする」「女郎がみんないい身請けされて晴れて大門を出ていける場所にする」と誓ったことも。
その思いがあるからこそ、お上の倹約だけの締め付けでは所詮は一番弱い者に皺寄せがいく事実に怒りを持ったのです。ここは、日本橋育ちのていとは異なる部分。蔦重の「なんとかしなければ」という焦燥はわからないかも知れません。
そんな蔦重の考えを理解できていたのは、やはり歌麿(染谷将太)でした。
「田沼様、源内先生、春町先生、信之介……命を失っていった人々の思いを蔦重は背負っていきている。それが大変でもそれが生きているってことだ。」
「倹約、倹約と締め付ければ、結局、それは一番力の弱いものにしわよせが来てしまう。」という歌麿。
夜鷹の母親の元で育ち虐待を受け、自らも体を売って生きてきて、きよ(藤間爽子)と一緒になり「きよも安く体を売らなければ生きてこれなかった」ことを知っている歌麿だからこそ、分かるのでしょう。
やはり、この蔦重と歌麿の間には他の人にはない特別な絆があるなと思いました。
