大河「べらぼう」殺された母子と壮絶な将軍の最期〜江戸を襲った洪水が引き起こす無念の死【前編】:4ページ目
生活に困窮する夫婦に「恩を仇」で返される
ある日、新之助の外出中、ふくと赤ん坊が殺される事件が起こります。帰宅し二人の死を知り呆然とする新之助の前に、捕まった下手人が。
案の定、犯人は、ふくが乳を与えていた赤ん坊の母親の夫でした。蔦重の姿を見て「あの家には米があるかも」と夫に告げ口をしたのです。そして、夫がその米を盗もうと、新之助の留守を狙って強盗に入ったのでした。
貧困ゆえ善悪の見境がつかなくなっていたとはいえ、あまりにも短絡的で場当たり的な反抗。快く自分の赤ん坊に乳を分けてくれるふくに対し、感謝するどころか「あの家は米を持っているかも」と邪推する母親。そして、少しでも盗めたらと期待して泥棒に入った挙句に、ふくも赤ん坊も殺す夫。
土下座して泣きながら新之助に謝る下手人夫婦の様子では、殺意はなかったものの、家に盗みに入った時にふくに見つかり揉み合いになり、大きな器で殴り当たりどころが悪く死に至らしめてしまったのでしょうか。その時、ふくが抱いていた赤ん坊は投げ出されてしまったのでしょうか。わかりませんが、最初から母子を殺すつもりではなかったようにも思えます。だからと言って、仕方なかったでは済まされないでしょう。
二人の様子に、妻子を殺したことは許せないものの、貧困ゆえの動機に「この者は俺ではないか。俺は、どこの何に向かって怒ればよいのか」という新之助。一歩間違えば、貧困ゆえに自分も同じ間違いをしでかした…と感じたのでしょう。
赤ん坊の乳を分けてくれる恩人とその子の命を奪うとは。いくら世の中が悲惨な状態とはいえ、到底許せるものではありません。
もし、ふくなら、お世話になっている恩人の家に「米があるかも」などと卑しい邪推はしないと思いますし、それを夫に告げ口することもないでしょう。新之助なら、もし、そんな邪推を聞いても、強盗に入るような愚かな真似はしないでしょうし、ましてや妻子を殺すことも絶対にないはず。
「新之助よ、お前はその犯人とは違う。」と肩を揺さぶりたくなるほど、下手人夫婦には怒りを覚えた内容でした。
妻子を殺した下手人夫婦への怒りや憤りを、直接ぶつけられずに飲み込んでしまった新之助。燃え上がった行き場のない暗い炎はどこに何に向けられていくのでしょうか。
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