大河「べらぼう」殺された母子と壮絶な将軍の最期〜江戸を襲った洪水が引き起こす無念の死【前編】:2ページ目
優しいふくの「困った時はお互い様」の心が悪を招く
「天明の洪水」は大きな橋も家屋も流すほどの規模で、ただでさえ貧困に喘いでいた庶民たちのささやかな営みを根こそぎ奪っていきました。
史実によると、この洪水は3年前の浅間山の大噴火が大きく影響していたとのこと。噴火により吾妻川を火砕流が流下、大量の土砂がさらに下流の利根川本川に流れ出し、河床の上昇を招いたことが今回の大洪水の遠因になったそうなのです。
被害が少なかった蔦重は、赤ん坊のいる新之助夫妻を心配して、二人の長屋を訪れ子どもの着物や米などを差し入れ、新之助に仕事を依頼するなど「救済」のために尽力していました。
その時、ふくが貧困で乳が出ない母親の代わりに、他人の赤ん坊に乳を与えていることを知り驚きます。「うちは蔦重のおかげで、少しばかりいい目を見させてもらっているから」というふく。
「私は人に身を差し出すのには慣れているから」というセリフが、うつせみ時代を思い出し、切なかったですね。
「困っている時はお互い様」というふくの姿に、嫌な予感がした人は多かったのではないでしょうか。幸せから一気に地獄に落とすことで知られる森下脚本。とてつもない不幸が彼女を襲うのでは……と感じたのは、私だけではなかったようです。
大洪水により家や職を失い生活困窮者が激増、流民で溢れかえる街、高騰する物価、人々はどんどん追い詰められ不穏な空気が漂っていきます。
