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『べらぼう』明暗分かれた“桜”…田沼意知と誰袖の幸せな桜と、追い詰められ悲劇を招いた佐野の枯れ桜【後編】

『べらぼう』明暗分かれた“桜”…田沼意知と誰袖の幸せな桜と、追い詰められ悲劇を招いた佐野の枯れ桜【後編】:4ページ目

心の底から振り絞るような「なにゆえこうも違うのかの…」

「なにゆえこうも違うのかの…」

花を咲かさない桜に刀を抜いて、「咲け」「咲け」とよろめきながら斬りかかる父。すっかり耄碌してしまった父の姿を見つつ、そう呟き涙を流す政言。

父を止めようとし何度も打ち据えられる佐野政言。見ているほうが目を覆いたくなるほど辛い場面でした。演じる矢本悠馬さんの抜群の演技力もあり、人の心が壊れた瞬間が分かるあまりにも哀しい場面でした。

その夜。「ある覚悟」を決め、刀の手入れをする政言。田沼憎しもあったのでしょうけれども、枯れた桜と同じで、この先佐野家は衰退するだけ、一条の光もささない暗闇のような出口のない自分の人生をもう終わらせてしまいたい、という思いのほうが強かったのではないでしょうか。

単純に恨みや怒りでかっとなり刃傷に及んだのではなく、佐野政言という人物の性格や心が揺れ動きながら暗闇に向かっていく様子を、丁寧に繊細に描いていたのは森下脚本ならでは。

幸せそうな誰袖と刀を抜いて意知に斬りかかる佐野政言の姿が重なるという、胸詰まる場面で終わりました。

史実では田沼意知を斬ったことで「世直し大明神」として庶民に称えられたという政言。けれど、決してそんな称号が欲しかったわけでも、庶民の英雄になりたかったわけでもなかっただろうに……と、思わされる回でした。

桜に彩られて幸せそうな意知と誰袖に降りかかる凶行。次回どのように描かれるのか、史実を覆すようなハッピーエンドにはならないでしょうから、少しでもそこに救いがあればいいのにと思いつつ、見守りたいと思います。

 

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