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『べらぼう』胸が詰まる“桜”の演出…田沼意知と誰袖の幸せな桜、悲劇を招いた佐野の枯れ桜【前編】

『べらぼう』胸が詰まる“桜”の演出…田沼意知と誰袖の幸せな桜、悲劇を招いた佐野の枯れ桜【前編】:3ページ目

想いが通じた満開の“桜”に花をつけぬ“桜”が重なる

意知が胸のうちを明かし蔦重が思わず涙を浮かべた頃。

誰袖は意知からの手紙を読みます。恐る恐る文を広げて読み進む誰袖の手は、「別れの言葉が書き連ねてあるのだろう」という悪い予感に震えているようでした。

けれども書いてあったのは「そなたに会えないのは辛い。そこでとりあえず、土山が身請けしたと体裁にして吉原からだす。それでもよいと思ってくれるならば申し出を受けてもらいたい」という意知の求愛。

安堵と喜びで涙を流しながら、ちょっと震える声で「身請けの話はもう無くなったと思いんしてな」と微笑みながら言う誰袖。本当にそう思っていたんだなと感じて、胸が詰まるようでした。

屋敷の机に向かい「今年の春はそなたと花の下で月見をしたい」と文を書きながら、ふと顔を上げて微笑んだ意知。誰袖に膝枕をしてもらい西行の「願わくば花の下にて春死なん」の句を用いて、お互いに想いあっていることを確認したことを思い出したのでしょうか。

薄暗い花魁の部屋で、誰袖に膝枕をしてもらい、幸せそうな二人の背後にある襖絵が満開の桜だったことに気づかれましたか。

本来なら、二人で桜を愛でる“夢”が現実に叶いそうだったのに。

“襖絵に描いた桜の木の下で想像した夢”だけで終わることを知っているだけに、この美しい場面は、ことさらに哀しさを感じました。

意知と誰袖のうれしそうな笑顔は、ほんとうに胸が詰まりましたね。

4ページ目 “男前が好き!”の言葉で苦界吉原を生き抜いてきた誰袖

 

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