『べらぼう』胸が詰まる“桜”の演出…田沼意知と誰袖の幸せな桜、悲劇を招いた佐野の枯れ桜【前編】:2ページ目
花魁との約束を果たす覚悟だった意知
蔦重の願いに対し、「そちらはもう手を打ったぞ」という意知。
「表向きは部下の土山宗次郎(栁俊太郎)が身請けをする形にして、約束を果たしたい」という手紙を誰袖に送っていたのでした。
誰袖花魁は、史実では土山宗次郎に身請けされたのですが、ドラマでは意知と結ばれるため“土山宗次郎のめかけ”という形で身請けするという、意表を突くストーリーに。
さらに「かつて源内殿を見捨てよと言ったのは私だ」と告白し、平賀源内(安田顕)を大義名分のもとに見捨てた後悔を語ります。自分のためにいろいろと尽力してくれた花魁を「またもや打ち捨てるでは、人としてお話にもなるまい」と微笑む場面は、胸にくるものがありました。
源内の意志を引き継ぐ覚悟、誰袖の約束を守る覚悟など、意知の胸の内を明かされ「私に何かできることがあればお申し付けください…」と答える蔦重。
それに対して笑みを浮かべた意知が言ったのが、冒頭の「よろしく頼む。蔦屋重三郎」です。
二人の心が通い合い、信頼という絆が芽生えた瞬間。蔦重をフルネームで呼ぶところもよかったですね。
このセリフ。瀬川が“五代目瀬川を継ぐ決意”を伝え、「吉原を何とかしたいと思ってんのはあんただけじゃない。だから礼にゃ及ばねえ。けど……任せたぜ、蔦の重三。」を思い出した人は少なくなかったようですね。
部下に「頼んだぞ」と言いながら、失敗したら知らん顔して相手のせいにして何の責任も取らない人間たちとは大違い。
意知と瀬川の「頼んだ」は、相手におんぶに抱っこで任せるのではなく、「自分が責任を背負う」と腹を決めた人間のすがすがしさと覚悟が伝わる言葉だと思います。