『べらぼう』差別に挑む蔦重の覚悟!「本」への想いが魂でつながった蔦重とていの心情を考察【後編】:2ページ目
「本に対する熱い想い」は蔦重もていも同じ
一流の絵師や戯作者というたくさんの「宝」を抱え、協力してくれる吉原の妓楼主たちなど「チーム蔦重」もでき、プロデューサー兼本屋としてビジネスを成長させてきた蔦重。
自分が日本橋のど真ん中で本屋を開いて大成功して「吉原者」に対する差別を無くすため、あと足りないのは「日本橋だけ」。
平賀源内(安田顕)の想い、愛する瀬川の想いも背負っています。
「夢」を現実にするには、まずは日本橋で空き店舗となる丸屋を手に入れたいと思うのは当然でしょう。
けれども、「吉原の蔦屋耕書堂だけは1万両積まれようとも、お避けいただきたく」。と吉原を嫌うていは手強い。「何かていが欲しいものはないか?」と、北尾重政(橋本 淳)に相談したところ「寺で漢籍を読んでいる」という話を聞き早速寺に出向きます。
そこで、偶然、店を閉店するにあたり、大量の本を住職(マキタスポーツ)に委ねにきたていに遭遇し、二人の会話を耳にします。
「本は処分してしまえば、ただの紙屑。けれども、本の立場になって考えればそれは不本意なこと。
本を子供達にあげれば、子らに文字や知恵を与え、その一生が豊かで喜びに満ちたものとなれば本も本望。本屋も本懐というものにございます」
と、ていは本音を語ります。(ただの駄洒落と違って、とてもインテリジェンスのあるエレガントな「地口」でしたね)
語り口調は違えども、以前蔦重が迷っていたとき、平賀源内がビジネスに挑戦するときに言ってくれた
「本ってなぁ、人を笑わせたり、泣かせたりできるじゃねぇか。んな本に出会えたら人は思うさ『あぁ、今日はついてた』って」
「本屋ってなぁ、ずいぶんと人につきを与えられる商いだと俺ゃ思うけどね」
という、セリフと同じ……と、誰もが思ったのではないでしょうか。「同じじゃねえかよ」と呟く蔦重。ていの口から、源内と蔦重と同じ考えが紡ぎ出されるシーンは感動的でした。
そして、彼女が欲しいものはたったひとつ。「本屋」という仕事だと気が付きます。けれども、その本屋も本も手放さなければならず「私は何のために生きているのか」と呟いた言葉を蔦重が捨て置くはずはないでしょう。
そして、亡八らとともに、日本橋の本屋達とていとの打ち合わせの場に乗り込みます。亡八らは丸屋の借金の証文をかき集めて、「俺たちにも店の権利がある」と主張しますが、鶴屋(風間俊介)から「証文ならこちらも持っている。しかし私たちはそういうことをやらない」と反撃されてしまいまうのでした。
そこで、冒頭の「どうです、女将さん、この際一緒に本屋をやりませんか?」……のセリフがでてくるのです。
ていが丸屋を続けたいと願っていることを知り、それなら「自分と組めば貴女の願いは叶うし、俺の夢も叶う」というプロデューサーらしいwinwinな考え方です。
けれども、いきなり「ザ・ビジネス」なオファーで、しかも「女やもめに花が咲くと言われるなら、ひと花咲かせましょう」などと、悪気はないものの、まったくデリカシーのない直球を投げ、逆に怒らせ「どんなに落ちぶれようと、吉原者と一緒になる気はありません」とバッサリ拒絶されてしまいます。
りつに、元の夫と同じ「女やもめの寂しさにつけこむ吉原者」扱いされるのも当然だと言われて、自分のミスに気が付く蔦重。
べらぼうなプロポーズ大作戦は大失敗に終わるのでした。


