
“愛国”とは何か? 飛鳥時代、日本で初めて「愛国」の言葉を授かった名もなき英雄・大伴部博麻:2ページ目
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それから約30年、博麻は異国での生活を経て、ようやく新羅使のつてを得て日本への帰還を果たします。
祖国はすでに持統天皇の時代へと移っていました。
この帰国を知った天皇は、深い感動と共に、博麻に高位と財産を与え、次のような勅語を直接授けました。
「朕嘉厥尊朝愛国売己顕忠」
(朕は、朝廷を尊び、国を愛し、己を売ってまで忠を顕したことをうれしく思う)
(『日本書紀』巻第三十、持統天皇4年10月22日条)
この勅語こそが、「愛国」という語の最初の用例であり、天皇が、一般の民に向けて発した最初で最後の勅語とされています。
博麻には、従七位下の位とともに、絹・布・稲・水田などの報奨が与えられました。さらに、彼の子孫三代にわたり、水田の相続と税の免除という厚遇が約束されます。
名もなき一兵士が、自分の命を投げうち、仲間を救い、国を救った。その行為はやがて、時代を超えて語り継がれ、「日本人の愛国心」の象徴となっていきます。
「大切な人たちの未来のために、何ができるか」
歴史の片隅に埋もれていたひとりの男の物語は、今の私たちにも、そんな問いを投げかけている気がします。
参考文献
- 三浦藤作『大伴部博麻』(1942 童話春秋社)
- 鶴久二郎『大伴部博麻 : 日本書紀 「尊朝愛国」の名を負う筑後先人』(1973)
- 「日本で最初に「愛国」という言葉が使われたのは」小名木善行 『ぜんこうのひとりごと』
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