奈良・明日香村にある謎の石造物!その名も「マラ石」とは?正体不明の陽石のことを考えた:3ページ目
災厄・疫病を封じる結界に立つ石
結局「マラ石」の正体は謎としかいいようがありません。ただ、石の近くを流れる飛鳥川は、『万葉集』に「故郷を偲ぶ 清き瀬に 千鳥妻呼び 山の際に 霞立つらむ 神奈備の里(歌意:清い瀬に、千鳥は妻を呼び、山の間に霞が立っていることだろう。飛鳥の神奈備の里では)」(巻7・1125)と読まれていることから、飛鳥川およびその周囲は、神聖な場所として認知されていたようです。
「マラ石」から南へ行った奥飛鳥の稲渕集落には「男綱」と呼ばれる勧請縄があり、さらに南へ行った集落にも同じ勧請縄の「女綱」が掛けられています。
飛鳥から奥飛鳥に入る際には、この男綱・女綱の綱の下を潜らなければなりません。綱の中央には、男綱では男性の陽物を象ったものが、栢森の女綱では女性の陰物を象ったものがくくり付けられています。
男綱・女綱は、豊作と子孫繫栄を願い、川下からの災厄や疫病を封じる意味があるとか。古代において川は重要な交通路であるとともに、交易のための流路でした。飛鳥地方を流れる飛鳥川も例外ではありません。飛鳥川は、下流で大和川に合流し、やがて大阪湾に注ぎます。
つまり、大阪湾に上陸した物資や人が大和川・飛鳥川を遡って飛鳥に至りました。川は、飛鳥京に暮らす人々に恩恵をもたらすとともに、疫病などの脅威ももたらしたのです。
「マラ石」も存在する場所から、あるいは災厄や疫病を封じる結界に関係があったのかもしれません。災厄や疫病がなければ、子孫繁栄にも繋がります。
たった1本で、倒れそうになりながらも立ち続けている。そんな「マラ石」を見ていると、思わず「頑張れ!」と声をかけたくなります。未来永劫、この地に残ることを願ってやみません。読者の皆さんも、明日香村に行く機会があれば、ぜひ「マラ石」まで足を運んで下さい。