「愛する男を抱いたこの手がさぞ憎かろう」狂おしく咲き乱れた江戸時代の衆道『男色大鏡』【後編】:2ページ目
「傘持つてもぬるる身」
『男色大鏡』中でも濃密な想いが描かれているとして有名な「傘持つてもぬるる身」。
(あらすじ)
親思いの美少年・長坂小輪。ある日出会った武士に推挙され、明石藩藩主の寵童になるも、「権力者のいいなりになって衆道を行うのは本意ではない」と反抗する。
古狸の怪異を退治したことでさらに殿の愛を受けることになるも、殿の寝所の隣で神尾惣八郎という恋人と愛を交わしているところを監視役に見つかってしまう。
詰問されても頑として惣八郎の名前を明かさないことから、嫉妬のあまり小輪憎しとなった殿に左手・右手・首と順番にはねられてしまうが、その処刑の瞬間に小輪は殿に「愛する男を抱いたこの手が、憎いでしょう」と、挑発し処刑される。愛しい小輪の最期を知った惣八郎は、二人の密会を殿に密告した監視役を殺し、小輪の墓の前で切腹して後を追う。
非常に激しい火花が散るような愛と、頑なに命がけで想う相手を守る絆の強さ、そしてどうにも心まで手にいれられなかった殿のむき出しの嫉妬の感情が伝わってくるお話です。
小輪は愛した男を守り抜くとともに、あえて殿を挑発しその手にかかることで「衆道ではご法度とされている不義」を働き裏切ったつぐないをした……とも想像できるのではないでしょうか。
「忍びは男女の床違ひ」
(あらすじ)
美貌や舞の才能などすべてにおいて恵まれていた役者初代・上村吉弥は、ある夜「高貴な方」より屋敷に招かれる。女の姿をして屋敷の奥の間に入り、そこの主人らしき官女と盃を交わし始めたところ、兄君の当主が帰還。当主に問い詰められ、困って女性物のかつらを取ったところ「なおよし」と兄の当主に可愛がられることになってしまったというお話。
男色の兄に、好みの役者を盗られてしまったという女性という、なんともこの時代らしいエピソードです。
武士・町人・歌舞伎役者etc ……それぞれの間で育まれ、ときには狂おしいばかりに繰り広げられた衆道・男色。
さまざまな階級や社会の中で日常的なものとして受け入れられいろいろな作品にも描かれ幕末の頃まで続きましたが、文明開化と共に同性愛を悪とする西洋キリスト教が広まったこと、高嶺の花であった遊郭が手軽になったこと、都市部の女性の人口が増えたこと……さまざまな理由から徐々に衰退していったそうです。
最期までお読みいただきありがとうございました。