入浴中は要注意!源頼家だけじゃない、お風呂が命取りになった源氏の者たち【鎌倉殿の13人】:3ページ目
『保元物語』より、丸裸で生け捕られた源為朝
さるほどに、「爲朝をからめて参りたらん者には、不次の賞あるべし」と宣旨下りけるに、八郎、近江国輪田と云所にかくれゐて、郎等一人法師になして、乞食させて日を送りけり……爰に佐渡兵衛重貞といふ者、宣旨をかうぶて、国中を尋もとめける所に、ある者申けるは、「此程、この湯屋に入者こそあやしき人なれ。大男のおそろしげなるが、さすがに尋常気なり。としは廿ばかりなるが、額に疵あり。ゆゝしく人にしのぶとおぼえたり」とかたれば、九月二日湯屋におりたる時、丗餘騎にておしよせてけり。爲朝眞裸にて、合木をもてあまたの者をばうちふせたれども、大勢にとりこめられて、云がひなくからめられにけり……
※『保元物語』爲朝生捕流罪に處せらるゝ事より
時は保元元年(1156年)、いわゆる保元の乱に敗れた為朝は懸賞首として近江国の輪田に潜伏。
郎党の一人に物乞いをさせ、糊口をしのいでいたある日、追手の一人に佐渡兵衛重貞(さどのひょうゑ しげさだ)という者がおりました。
「近ごろ、湯屋の中に怪しいヤツが出入りしていますぜ。恐ろしげな大男で年は20歳ほど、額に傷があって何だか人目を避けているようでした」
密告を受けた重貞は9月2日、30騎ばかりの軍勢を率いて湯屋に突入します。
「鎮西八郎、観念せぇ!」
「何だと、小癪な!」
為朝は素っ裸でしたが、それでも流石は天下に聞こえた豪傑。湯屋の合木(ごうもく。利用者みんなで出し合った風呂の薪。ここでは単に薪)を手に取って大暴れ、追手の者どもを散々に打ち据えました。
しかしやはり裸だといつもの怪力もどこか遠慮がちなのか、ついには人海戦術に押し切られ、あえなくお縄となったのでした。
終わりに
捕らわれた為朝は死一等を減じて伊豆大島へ流罪となり、そっちでも一暴れするのですが、工藤茂光(演:米本学仁)らによって討伐されてしまいます。
以上、お風呂が運の尽きとなった源氏一族を紹介してきました。果たしてNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では頼家がどんな最期を遂げるのか、心して見届けたいところです。
※参考文献:
- 大隅和雄 訳『愚管抄 全現代語訳』講談社学術文庫、2012年5月
- 岸谷誠一 校訂『平治物語』岩波文庫、1934年11月
- 岸谷誠一 校訂『保元物語』岩波文庫、1934年11月