「鎌倉殿の13人」心を開きかけた頼家だが…第29回放送「ままならぬ玉」振り返り:5ページ目
所領の地図に線引きし、僧侶の黒衣をはぎとる頼家
頼時改め泰時の思い切った決断と窮民からの評判に対して、苛立ちを見せる頼家。
「これで百姓たちは証文をないがしろにする」
確かに困ったからと言っていちいち証文を破り捨てていては、契約が成り立たなくなってしまいます。まぁ、あくまでも窮余の策ということで。
早くも後に名執権となる兆しを見せる泰時に対して、頼家の暴挙は続きました。
畠山重忠(演:中川大志)が頼家に裁可を仰いだ陸奥国葛岡の新熊野社(いまくまのしゃ)における所領争い。これは『吾妻鏡』に元ネタがあります。
陸奥國葛岡郡新熊野社僧論坊領境。兩方帶文書。望惣地頭畠山次郎重忠成敗。重忠辞云。當社雖在領内。秀衡管領之時。令致公家御祈祷。今又奉祈武門繁榮之上。重忠難自專者。則付大夫属入道善信擧申之。仍今日羽林召覽彼所進境繪圖。染御自筆。令曳墨於其繪圖中央給訖。所之廣狹。可任其身運否。費使節之暇。不能令實檢地下。向後於境相論事者。如此可有御成敗。若於存未盡由之族者。不可致其相論之旨。被仰下云々。
※『吾妻鏡』正治2年(1200年)5月28日条
内容はだいたい大河ドラマと同じ。絵図の真ん中にビシャッと筆で線を引き「所領争いなんてこれでいいんだよ。どっちが広くても運次第、いちいち実地検分だのしゃらくせぇ。文句あるか!(意訳)」と言い放ちました。
前に愚痴っていた「くだらぬもめごとが多くて、うんざりします」の答えがこれ。苦労知らずな頼家にとって、土地の広い狭いで争ったり、煩雑な事務手続きが心底鬱陶しかったのでしょう。
「好きにさせてもらったぞ」
そう比企能員に言い放つ頼家。さすがに乱暴すぎるきらいはあるものの、業務の効率化を図りたい意欲と即断力は、一定の評価があってもいいかも知れませんね。
また、念仏僧を捕らえた場面についても『吾妻鏡』に言及があります。
「その忌まわしい衣をむしり取り、鎌倉から放り出せ!」
羽林令禁断念佛名僧等給。是令惡黒衣給之故云々。仍今日召聚件僧等十四人。應恩喚云々。然間。比企弥四郎奉仰相具之。行向政所橋邊。剥取袈裟被燒之。見者如堵。皆莫不彈指……
※『吾妻鏡』正治2年(1200年)5月12日条
頼家(羽林)は念仏僧の活動を禁じました。その理由は「黒衣が気に入らない」からだとか。比企弥四郎(演:成田瑛基)に命じて念仏僧14名を連行させ、政所の橋(現:筋違橋)の辺りでその黒衣を奪って焼き捨てさせたのでした。
なぜ黒衣が気に入らないのかと言えば、自身が朝廷から着用を許された束帯(そくたい。朝廷に出仕する際の正装)の色が黒で、これと同じだからとのこと。
何と罰当たりなことを……その様子を見ていた野次馬たちは、災難除けとして指を弾かないものはいなかったとか(いわゆる指パッチンが災難除けとされていたようです)。
劇中では時連の諫言によって死一等を減じ、鎌倉からの追放で済みました。さすがに史実以上の悪人には描かないようでホッとしました。
次週・第30回放送「全成の確率」
人を信じまいと孤独に苦しんでいた頼家に光明が差したと思ったら、一つだけ回収し忘れていた?人形(ヒトガタ)によって呪詛が発覚。
心当たりは一人しかいない……ということで、とうぜん全成に容疑がかかってしまいます。
次回のサブタイトルは「全成の確率」。これは前に言っていた「自分の呪詛は半々しか成功しない」というセリフを受けたもので、もしかしたらこれが頼家に「当たってしまう」のでしょうか。
(もちろん、外れたからと言って鎌倉殿を呪詛したこと自体が大罪ですが……)
全成が実衣に言っていた「やっぱり、お前は赤がよく似合う」というセリフ。二人が意識し合ったキッカケであり、晩年の頼朝が嫌うからと身に着けていなかった赤い髪留め。
確かこの色は彼女にとってラッキーカラーでもあり、そのお陰で彼女だけは助かるという暗示なのかも知れませんね。
果たして全成は助かるのか、そして比企と北条の対立はどうなっていくのか。来週も手に汗握る展開に、覚悟を決めて見届けましょう。
※参考文献:
- 『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 後編』NHK出版、2022年6月
- 『NHK2022年大河ドラマ 鎌倉殿の13人 続・完全読本』産経新聞出版、2022年5月