なんと美しい!新聞の付録として絵師・月岡芳年が描いた徳川慶喜の正室・美賀君の浮世絵を解説:3ページ目
打掛の模様の意味
上記の打掛部分に描かれていて、ベースになっているのは「御簾(みす)柄」です。御簾とは平安時代の寝殿造りにおいて母屋と廂の間にかけた簾(すだれ)のことです。
将軍の正室をさす「御簾中」とは“常に簾(すだれ)の中にいる人”を意味し、美賀君そのものを表す模様です。
そして打掛の全体に鞠のような丸い模様がありますね。
これは鞠ではなく“茄子”です。丸みを帯びた形状の下の部分が尖っていませんか?
茄子は実は徳川家康の大好物の食べ物なのです。
いきなりですが、“一富士二鷹三茄子”という言葉よくご存知ですよね。これを新年の初夢に見ると縁起が良いと言われるものです。
実はこれは徳川家康に関連するのです。
徳川家康は駿府(静岡県)に深い関わりがあります。静岡県といえば富士山がありますね。昔は富士山を‘極楽浄土’とする考え方がありました。だから縁起が良いのです。
その富士山のふもとには昔から有名な鷹狩りの場がありました。家康は鷹狩りが大好きだったのです。
そして本題の‘茄子’ですが、静岡県の三保半島(三保の松原がある所です)で‘折戸なす’が栽培されていました。この茄子は通常の茄子よりも1,2ヶ月早く収穫出来ました。
初物が大好きな江戸っ子たちの間でこの‘折戸なす’は人気があり、初茄子は5個で一両、今で言うと10万円したとか。
家康は折戸なすが好物だということで、500個も献上されたそうです。
家康の好物でしかも初物は高級品ということで、徳川家に嫁いだ美賀君の打掛の絵柄として描かれるのはものとしては最適なのです。