パパ大好き!やんごとなき少女が想いを伝えた『徒然草』のほっこりエピソード
「わたし、大きくなったらパパのお嫁さんになるの!」
「あらまぁ、A子ったらおませさんねぇ」
「ママとA子のどっちもお嫁さんじゃ、まさに『両手に花』だな。ハハハ……」
そんなセリフをどこかで聞いたことがあるような、ないような……いつの世にも父親が大好きな娘というのはいるもので、鎌倉時代の随筆集『徒然草(つれづれぐさ)』にも、そんなエピソードが描かれています。
ただ、やんごとなきご身分ゆえか、あるいは照れ隠しなのか、その愛情はちょっと変わった趣向で伝えられたそうです。
さて、どんな内容だったのでしょうか。
なかなか会えない父親に……。
今回の主人公は悦子内親王(えつし ないしんのう。正元元・1259年生~元弘2・1332年没)、鎌倉時代の第88代・後嵯峨天皇(※)の第二皇女に当たります。彼女がまだ幼かったころのお話し。
(※)エピソード時点では既に譲位されて、後嵯峨上皇(院)となっています。
日ごろは母親の西園寺公子(さいおんじ きんし。大納言三位)と一緒に暮らしていましたが、やんごとなき事情によって大好きな父親とはなかなか一緒に過ごすことが出来ません。
「あーあ、お父様もご一緒だったら、どんなにか毎日楽しいことでしょう……今度お会いできるのはいつかしら、こんな近くに暮らしているのに……」
なかなか会えないからこそ慕情も募るそんなある日、父の元へお使いが参ることになりました。
「え~、いーないーな。そのご用事、わたくしが代わりた~い!」
「はしたないことをお言いじゃありませんよ……でも、せっかくですから御歌でも詠んで差し上げたらいいわ」
「はいっ!」
悦子は上皇陛下に少しでも喜んでもらおうと、一生懸命に考えました。
「あぁ、考えるだけで嬉しい、楽しい……でも、あんまりストレートだとつまらないかも……」
あっと言う間に当日となり、悦子はどんな御歌を詠んだのでしょうか。