怖い話と言えば、妖怪や幽霊が現れるホラー系や、人食い生物(サメ、熊など)や殺人鬼などが暴れ回るパニック系が定番でしょう。
しかし、中には幽霊も殺人鬼も現れないどころか、登場人物が一人しかいないのに、強烈なインパクトを刻みつける昔話も存在します。
今回は大分県の伝承から、昔話「吉作落とし」を紹介。聞いている内に、背筋がゾワゾワしてくること請け合いです。
岩茸採りの山男・吉作
今は昔、豊後(ぶんご。現:大分県)と日向(ひゅうが。現:宮崎県)の国ざかいにそびえる傾山(かたむきやま。現:大分県豊後大野市)の麓に、吉作(きっさく)という男が住んでいました。
吉作は幼い頃に両親を亡くして以来ずっと独りでしたが、心身ともにたくましい山男に成長。傾山で岩茸(いわたけ)を採って生業としていました。
岩茸とは険しい断崖絶壁に生える苔の一種で、生薬として珍重されたため高く売れましたが、生えている場所が場所だけに、作業中の転落事故で命を落とす者も少なくありません。
それでも貧しい村人にとっては貴重な収入源となるため、危険を顧みず岩茸採りに励み、吉作もそんな一人として、縄一本で断崖絶壁を伝い下りては、せっせと岩茸をこそぐのでした。