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今も昔も女心は難しい。追えば逃げるし、追わねば怒る…とある平安貴族の恋愛模様

今も昔も女心は難しい。追えば逃げるし、追わねば怒る…とある平安貴族の恋愛模様

「荻の葉の こたふるまでも 吹きよらで……」

「……あーあ、勿体ない。せっかく来てくれたのに入れてあげないなんて……」

主人公はがっかりした気持ちを、こう歌に詠みました。

「笛のね(音)の ただ秋風と 聞こゆるに
など荻の葉の そよとこたへぬ」

【意訳】笛の音が秋風のような哀情を奏でているのに、なぜ荻の葉はそよがないのかしら……。

想い人が来てくれたのだから、つまらぬ意地など張らず、限られた夜を楽しく睦み合えばいいのに……そんな明朗快活な少女らしい感想を歌に述べたところ、姉はそっけなく返歌を添えます。

「荻の葉の こたふるまでも 吹きよらで
ただに過ぎぬる 笛のね(音)ぞう(憂)き」

【意訳】荻の葉がそよぐまで吹き続ける性根もない、中途半端な笛の音なんて、聞かされたところでかえって辛いだけなのよ。

この時、姉は既に結婚していたものの、愛しの夫は出張でずっと会えない日々が続いており、その憂鬱な思いが、夢見がちで『源氏物語』のようにロマンチックな恋愛に憧れている妹(主人公)との違いに表れたのかも知れませんね。

結局、あの笛の男性は「荻の葉」を諦めてしまったらしく、『更級日記』にその後のエピソードは記されていません。

「追えば逃げるし、追わねば怒る」

こうした複雑な気持ちや恋の駆け引きと言ったものは、今も昔も変わらないようです。

※参考文献:
鈴木知太郎ら校註『土佐・かげろふ・和泉式部・更級 日本古典文学大系20』岩波書店、昭和三十九1964年5月25日 第7刷
辻真先・矢代まさこ『コミグラフィック日本の古典15 更級日記』暁教育図書、昭和五十八1983年9月1日 初版

 

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