今も昔も女心は難しい。追えば逃げるし、追わねば怒る…とある平安貴族の恋愛模様:2ページ目
月夜に「荻の葉」を訪ねて
そんな時、表の路地を牛車(ぎっしゃ)が通りがかり、間もなく隣の屋敷前に停まりました。
「荻の葉……荻の葉の君よ……」
牛車から降りた男性が、門を叩きながら呼びかけます。荻(おぎ)とはススキに似た植物で、秋の美しい月によく映えます。
呼ばれた女性は、きっと荻の葉に縁のある出会いでそうあだ名されたのか、あるいは「荻の葉が揺れる月の夜に」など逢瀬の約束でもしたのかも知れません。ロマンチックですね。
しかし不在なのか、あるいは男を拒んでいるのかは分かりませんが門は開かず、その後、男性が何度か呼びかけても返事はなく、門も一向に開きません。
「せっかく殿方が訪ねて来て下さったのだから、入れて差し上げればいいのに……」
「しっ」
他人事ながら少しイライラしてきた主人公を、姉がたしなめて様子を窺っていると、男性は懐中より笛を取り出して吹き始めました。
その音色は秋の月夜の侘しさをよく表現し、思わず寄り添いたくなる恋情を誘うものでしたが、しばらく吹き続けても一向に反応がなかったため、男性はついに諦めて笛をしまい、牛車に乗って帰ってしまったのでした。