前世の記憶がきっかけで?平安時代のやんごとなき姫君と冴えない衛士の駆け落ちエピソード【二】:2ページ目
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二人で御所を脱出、いざ武蔵国へ!
とんでもないことを言い出され、衛士は困ってしまいました。
いくら姫宮さまの願いとは言え、勝手に連れ出しなどしようものなら、打ち首どころの騒ぎではありません。
「いやいやいやいや姫宮さま、まことに滅相もねぇことで。吾(おれ)の故郷など、東夷(あづまゑびす※1)の棲む野蛮な土地でごぜぇやす。姫宮さまをお連れするなど、とてもとても……」
(※1)都から見て東の国に住む野蛮人(ゑびす)。ちなみに南なら南蛮(なんばん)、西なら西戎(せいじゅう)、北なら北狄(ほくてき)となり、どれも同じ意味です。
そう言って何度も固辞する衛士でしたが、是が非でも武蔵国に行って、酒甕に浮かぶ瓢の眺めを一目見たいと聞かない姫宮さまに、とうとう根負けしてしまいました。
「……解りやした。そこまでご所望でしたら、どうにか姫宮さまを武蔵国へお連れ致しやしょう」
お付きの者がいたら大慌てで止めたでしょうが、そうした記述のないことから、恐らく姫宮さまは衛士と二人きりだったのでしょう。不用心ですね。
ともあれその夜、衛士は姫宮さまを背負って御所の塀をよじ登って脱出。一目散に武蔵国を目指して駆け出したのですが、果たして二人の行く末はいかが相成るのでしょうか。
※参考文献:
辻真先・矢代まさこ『コミグラフィック日本の古典15 更科日記』暁教育図書、昭和五十八1983年9月1日 初版
藤岡忠美ら校注 訳『新編日本古典文学全集 和泉式部日記 紫式部日記 更級日記 讃岐典侍日記』小学館、平成六1994年9月20日 第一刷
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