「ほどよさ」が何となく残ってる温泉街、島根・温泉津
絵に描いたようなレトロさを売り物にして観光客を呼び込む店や、あるいは街全体が作られたレトロさに満ちてたりすることが、珍しくない昨今であります。また、それに飽き足らない人達がB級スポット巡りと称して、「廃墟以上、観光地未満」な場所をほじくり返す遊びも、若干ネタ切れ気味の昨今であります。ほどよくネイティブで、ほどよく異郷の観光気分も味わえる場所というのは、全てがフラットに向かう今の日本では案外少ないのかもしれません。
島根県の海岸沿いにある温泉津、温泉の津と書いて「ゆのつ」と読むこの港町は、そんなほどよい気分を感じさせてくれるところです。世界遺産・石見銀山の近くであり、かつてはその石見銀山の積み出し港として栄えましたが、現在はこじんまりとした温泉町として名を知られてます。
温泉町といっても、地方の温泉によくあるギラついてる感じも、ギラつきが落ちて枯れ果てた感じも、ありません。源泉が小さいためか、ド派手なホテルなどは一切なく、また湯治専門のコアなテイストもなし。風情あり過ぎのこじんまりとした旅館が並ぶ様は、すごく観光的にも見え、非観光的にも見えます。ほとんどの家の屋根が赤い石州瓦ゆえ、景観のトータリティがさりげなく高いのもまた、すごく観光的にも見え、非観光的にも見えます。
温泉は、基本的に元湯なる公衆浴場へ通うスタイル。旅館の多くは温泉を引いてますが、大抵の客はこの元湯へ出かけます。建物も、浴場も、湯の熱さも、実にディープ。「ちょっと濃そう」という方には、すぐそばにカフェなども併設された新しめの浴場も用意されてます。
温泉とともに温泉津で目を引くのが、温泉せんべいです。これがまた、これ以上ないくらいにオーソドックスな、温泉せんべい。店先には、ちょっと大きめの赤いカンカン。商売っ気があるわけでも、ないわけでも、ない。子供にくすぐられたような気分になって思わず足を止めてしまう、絶妙な雰囲気なのです。味の方は、温泉せんべいなのに炭酸が入ってないのが謎ですが、おかげで素朴というか、珈琲や紅茶と異常に相性が良かったりします。
「何となく」ほどよい異郷の香りが残る町が減ってきた、今の日本。温泉津が本当に「何となく」残ってるのかは知りませんが、ゆったりとした気分になれる町であることは確かだと思います。遅めの夏休みをひっそりと過ごしたい方は、一度出向いてみてはいかがでしょうか。
温泉津観光案内 – 大田市観光協会温泉津支部
温泉津温泉 – Wikipedia