死ぬも生きるも兄弟一緒!平安時代、数万の軍勢に突撃したたった2人きりの零細武士団の武勇伝:3ページ目
生田の森の先陣ぞや!河原兄弟かく戦えり
さて、河原兄弟は夜陰に乗じて逆茂木(さかもぎ。樹木を逆さに立てて根をむき出しにしたバリケード)をくぐり抜けながら、大音声で名乗りを上げました。
「やぁやぁ遠からん者は音に聞け……我こそは武蔵国の住人、河原太郎こと私市の高直!」
「同じく次郎盛直、生田の森の先陣じゃ!」
【原文】
「武蔵の国の住人、河原太郎私市の高直、同じき次郎盛直、生田の森の先陣ぞや」
しかし対する平家方は敵がたった二人と見くびって、
「ほぅ、さすが坂東武者は命知らずと聞いていたが流石じゃのう……しかしたった二人で何が出来るものか。生暖かく見守ってやれ」
【原文】
「あつぱれ東国の武士ほど恐ろしかりけるものはなし。この大勢の中へ、ただ兄弟二人駆け入つたらば、なにほどの事をかし出だすべき。ただ置いて愛せよや」
……などと余裕の対応。これに腹を立てた河原兄弟は得意の弓で、片っ端から矢を射かけました。その凄まじい矢勢に平家方は散々に逃げまどい、流石に見過ごせなくなった知盛が河原兄弟を討ち取るよう命じます。
すると平家方きっての強弓・真鍋五郎祐光(まなべの ごろうゆきみつ)が進み出て、弓を満月の如く引き絞り、射放った矢は太郎の胸板を貫きました。
「……兄者!」
「次郎……我に構わず、先に行け!」
「兄者を見捨てらりょうか!共に参ろうぞ!」
と、太郎の腕を肩にかけてなおも前進を試みますが、真鍋の矢が次郎の太腿を射貫き、二人崩れ落ちたところを駆けつけた真鍋の郎党に斬られ、あえなく討死してしまいました。
後刻、献上された河原兄弟の首級を前に知盛は
「この者らこそ一騎当千のよき武士と言うべきだ。命を助けてやりたかったが、誠に惜しいことだ」
【原文】
「あつぱれ剛の者や、これらをこそ、一人当千のよき兵どもとも言ふべけれ。あつたら者どもが命を助けてみで」
と賛辞を贈ったそうです。