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[お江戸小説] ココロサク [お江戸小説] ココロサク【最終話】春はいつだって

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「へい、おまちっ!」
目の前に置かれたお鮨は、おむすびくらいの大きさだ。でも、あまりに美味しいうえにかなりの空腹ということも相まって、あっという間に平らげてしまった。
「さすが、おりん!江戸っ子だね。食事も、素早いね。じゃあ、早速行こうか」
「え?どこへ?」
「小金井だよ。桜はもう咲いていないけど、今から行ってみようよ」
そういって、いたずらっ子のように笑う新さんに、ドキッとさせられてしまう。
「でも、ここから小金井まで、歩いたらかなりの距離が……」
「大丈夫だよ、辻駕籠で行くから。ここからだと、小一時間くらいかな」
まさか、今から行くとは!ちょっと強引だけど、そんなところも好き。

「おりん、着いたよ」
辻駕篭で揺られているうちに、いつの間にかうたた寝してしまったようだ。
「ごめんなさい、いつの間にか寝ちゃって…」
籠の外には、どこか懐かしい景色が広がっていた。このあたりは郊外ということもあり、ほんとに静かだ。呑んで騒いで…と賑やかになるのは花見や祭りのときぐらい。
「隅田堤も華やかでいいけど、小金井はなんだかほっとする所だね」
夜空を見上げながら、深呼吸する新さん。少し冷えてきたけれど、そのひんやりした空気が気持ちいい。

「小金井って、なんだかおりんみたいだ」
「私みたいって?」
「一緒にいると、自然体でいられて心落ち着くところだよ。おりんといると、ほっとするんだ。それでいて危なかっしいときもあるし、いつの間にかおりんから目が離せなくなって……。好きだ。ずっと、一緒にいたい」
夢のようだ、憧れの新さんにそんなことを言ってもらえるなんて。
「私も、新さんのことが……好き!」
そう自分の気持ちを伝えたとき、ひとひらの桜が舞い降りてきた。2人のことを祝福するかのように。

希望っていう言葉が似合うのは春だと言う人もいるけれど、私はそうは思わない。春は、いつだってやってくる。希望は、いつだってすぐ近くにある。この人と一緒だったら、なんでも頑張れる。そんな想いが溢れている。来年も、再来年も……ずっと新さんと一緒に笑っていられるよう、心には春を咲かせていたい。いつまでも、ココロサク。

(終わり)

 

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