天皇のお墓すなわち御陵を、お参りする鬼というのがいます。京都の話です。
鬼といえば、普通は「まつろわぬ者」が具現化した存在として認識されるもの。権威のもっともたるものである天皇の近くになど、お墓であっても近付くことはないと思えたりします。何せ御陵は、一般人でさえ「宮内庁管轄」の札の向こうには近付けないわけですから。
しかし、これが行ってしまうのです。三十三間堂のすぐ近くにある法住寺で行われる、11月15日の身代不動尊大祭では。
法住寺は、後白河上皇が建てた法住寺殿の名残であるお寺。後白河上皇といえば、ちょっと前に松田翔太がエキセントリックな帝として演じてましたが、法住寺殿はその上皇による院政の舞台となりました。実は、すぐ近くの三十三間堂も、元々は法住寺殿の一施設だったりします。
後白河上皇の崩御後、法住寺の敷地には「法住寺陵」が築かれました。この御陵は、現在も残っています。もちろん、宮内庁管轄の一般人立ち入り禁止区画として。
この法住寺陵へ、鬼が入って行くんですよ。上皇の身代わりとなったという不動明王像を祀るこの大祭では、寺の境内で護摩が焚かれますが、そこへ数匹の鬼たちが乱入。斧やら杵やらの鬼道具を振り回しながら、護摩の周りを踊りながらグルグル回る鬼法楽を披露します。で、その前に、「法住寺陵」のお参りをするんですよ。
鬼たちは、護摩の準備をしてた山伏さんたちと共に一旦寺を出て、寺のすぐ隣にある「法住寺陵」へ移動。もちろん、鬼必須アイテムである斧やら杵やらの物騒な道具も、しっかり抱えたままで。直立不動で敬礼をされてる警備の人の前も、斧やら杵やらを持ったままで平気で通り、御陵の前に並びます。そして、やはり斧やら杵やらを持ったまま、神妙に御陵にお参りするのです。まるで、そのスタイルこそが彼等の礼を尽くした正装であるかのように。
鬼の御陵参拝は、確かに奇景といえば奇景です。しかし後白河上皇は、ある意味で当時のアウトサイダー文化ともいえる今様を深く愛し、『梁塵秘抄』を編んだことでも知られる帝。ひょっとすると、アウトサイダーの権化のような鬼に参拝されるストレンジさを、楽しんでいらっしゃるかも知れません