『べらぼう』より攻めたお上批判を!運命が大きく変わる“抗う道”を選んだ蔦重とチーム蔦重たち【後編】:3ページ目
うまくいかないことは“間違”いではないと…
第35回『間違凧文武二道』。タイトルの“間違”を思わせる流れは随所にありました。
上り調子の時に読んだ黄表紙本の内容を、自分へのエールだと間違って捉えてしまった松平定信。「すべて田沼のせい」という思い込みと新しい老中への期待から「松平はすごいということだ」と間違って解釈する庶民。さらに、黄表紙本の中に登場する“ぬらくら”や“トンチキ”たちの間違った行動。さらに、伝わらないという気持ちから、危険な方向へ踏み出した蔦重やチーム蔦重。
定信は、自分が必死に励んでいる改革なのに、将軍は政には興味はないわ、反田沼で結びついたかと思った一橋は、能に夢中になり平気で賄賂も受け取っているわ……な状態です。徐々に自分の思うようにことが運ばなくなると、今までは面白く感じていた黄表紙が、気に障り出すのではないでしょうか。
そして、今までは「すべて田沼のせい」と怒りの矛先を向けていられたのに、仮想敵の亡きあと、自分の改革が上手くいかないのは「お前のせいだ!」というスケープゴートが必要になる。
そんな空気の中でかなり攻めている『鸚鵡返文武二道』を読んだら……恐ろしい状況になりそうですね。
筆者は個人的には、蔦重が知と書で大きな権力に抗う道を選んだのは “間違い”ではなかったと思います。うまくいかなかったことは決して「間違い」ではないと……。
闇に葬られた平賀源内、斬り殺された田沼意知、幸せを奪われた誰袖、自分の身代わりに殺された新之助、追いやられた田沼意次……大切に思っていた人々の人生が陰謀によって奪われていったことは、蔦重にとって決して許せることではないはず。
「書を持って世に抗う」ことを決めたのは、それらすべての無念がベースにあってのこと。もし、ここで妻・ていの忠告を受け「ここは世論に受けるように、松平を褒める本を出したほうがお咎めもなく金も儲かる」という方向に進んでいたとしたら。
その選択は人によっては「正しい」と感じるのかもしれません。けれども、もし蔦重がその選択をしていたら、ここまで注目されなかったのではないでしょうか。(もちろんドラマ化にもならなかったかと)
蔦屋重三郎という人物が、現代まで語り継がれるほどの名プロデューサーとなったのは、アイデアマンで有名なクリエーターをたくさん育てただけではなく、自分の武器である「書」でおかしな「世に抗う」という一本筋を通したその生き方にあったのではないでしょうか。
そんなことを思いつつ、今後の展開を見守りたいと思いました。

