【べらぼう】蔦重が松平定信に”書をもって断固抗う”決意を込め実際に出版した黄表紙3冊を紹介:3ページ目
山東京伝『時代世話二挺鼓(じだいせわ にちょうつづみ)』とは
タイトル
時代とは時代劇、世話とは歌舞伎のジャンルで現代劇。すなわち「時代劇をモチーフにした時事ネタ」を暗示。
二挺鼓とは太鼓と鼓(つづみ)を同時に「打つ」技。打つは「討つ」にも通じるため……。
ストーリー
時は平安、坂東では平将門が「岡場所内裏」を作ろうと企んでおり、朝廷は俵「通」太こと藤原秀郷に討伐を命じます。
岡場所とは非合法の遊郭、ここでは非合法の内裏すなわち謀叛による偽朝廷を指しました。
秀郷は手勢を山に潜ませておき、まずは一人で将門と対面します。
「新皇様は早業の名人とうかがっていますが、それがしと勝負願いたい」
そこで将門は7人に分身して7人分の膾(なます)を刻むと、秀郷は八人前(スライサー)を取り出して8人分の膾を刻んで見せました。
……とまぁこんな具合に、ほか器楽・書道などと早業勝負を繰り返し、秀郷は将門を圧倒します。
「お前は7人に分身できると言うが、私は8人に分身できるのだ。この特殊な眼鏡で、真の姿を見るがいい」
秀郷から渡された細工眼鏡をかけると、確かに8人に見えました。
「さぁ。約束通り、この岡場所内裏は閉鎖して、売りに出させてもらおう」
往生際の悪い将門は、分身みんなで槍をとって秀郷に襲いかかるも、秀郷は千手観音のご加護で返り討ちに遭います。
秀郷が将門の首を刎ねると、中から7つの魂が飛び出していきました。
かくして叛乱は収まり、将門の霊は神田明神として祀られることになります。
解説
平将門のモデルは、意次の嫡男である田沼意知。首から飛び出した7つの魂は、田沼の家紋である七曜(しちよう)です。
俵藤太こと藤原秀郷は佐野政言の祖先であり、タイトルの「二挺鼓」は、田沼父子をまとめて「打つ(討つ)」意味が込められました。
また話中には遊郭文化が散りばめられ、紛い物の岡場所よりも、やっぱり本物(吉原遊郭)のよさ(洗練ぶり)が描かれています。
※平将門の首級について:
首級は本当に飛んだのか?日本三大怨霊のひとつ、平将門「怨霊伝説」の元ネタを紹介【前編】
終わりに
今回は蔦重らが出版した3冊の黄表紙を紹介してきました。
どれもこれも、諷(あてこす)りのように「ふんどし野郎」こと松平定信をヨイショしていますが、この「穿ち」は果たして野暮天どもに通じるでしょうか。
このうち『文武二道万石通』については、後に絶版処分を受けてしまい、朋誠堂喜三二は筆を折ることになります。
また恋川春町も後に『鸚鵡返文武二道(おうむがえし ぶんぶのふたみち)』を出版したことにより、戯作者生命を絶たれてしまいました。
果たして蔦重たちの闘いは、どのような結末を迎えるのでしょうか。手に汗を握る展開が続きそうです。
※参考文献:
- 恋川春町『悦贔屓蝦夷押領』早稲田大学図書館・古典籍総合データベース
- 朋誠堂喜三二『文武二道万石通 3巻』国立国会図書館デジタルコレクション
- 山東京伝『時代世話二挺鼓 2巻』国立国会図書館デジタルコレクション


