尾張徳川家に伝わる家康の遺産や大名道具などを一堂に紹介する特別展「尾張徳川家 名品のすべて」開催
徳川美術館で、秋季特別展「尾張徳川家 名品のすべて」が開催されます。

本展は、名古屋城を居城とした御三家筆頭・尾張徳川家に伝わる家康の遺産や大名道具、蔵書、そして近代以降に加わった文化財まで、日本の美と知の結晶を一堂に紹介する特別展です。
名品1 家康からの贈り物――「駿府御分物(すんぷおわけもの)」
家康の没後、その膨大な遺産は将軍家および尾張・紀伊・水戸の「御三家」に分け与えられました。御三家とは、将軍家を補佐し、将軍家に後継の男児がいない場合には養子を出すことを許された特別な家柄です。家康は3男・秀忠に将軍職を継がせ、残る3人の息子たちに財産を分与して御三家を立て、徳川将軍家を支える体制を築きました。

徳川美術館には、御三家筆頭である尾張徳川家の初代・義直(家康9男)が相続した遺品が「駿府御分物」として伝わっています。遺産目録とともに受け継がれたこれらの品々は、刀剣・書画・茶道具・衣服など多岐にわたり、なかには室町将軍家や織田信長、豊臣秀吉といった歴代の権力者の手を経た名宝も少なくありません。天下人・家康のもとに集まった東洋美術の粋は、このようにして名古屋に残されたのです。
名品2 暮らしの中の一流の品々――尾張徳川家伝来の大名道具
大名道具とは、江戸時代の大名家に代々受け継がれてきた美術工芸品の総称です。大名家には武家として必須の武具甲冑のほか、教養のための書画や茶道具、能道具、儀礼に用いる調度類など、多岐に渡る美術工芸品が、道具として整えられていました。江戸時代を通じて将軍家に次ぐ家格を誇った尾張徳川家には、その格式に相応しい当世一流の道具が集まり、代を重ねるごとに蓄積されたことで、自然発生的に豊かなコレクションを形づくりました。

尾張徳川家の大名道具は、尾張家の歴史や格式、文化的教養を象徴すると同時に、最上級の東洋美術のコレクションなのです。
名品3 知の宝庫――日本屈指の大名文庫「御文庫(おぶんこ)」
尾張藩の書物倉である「御文庫」は、「駿河御譲本(するがおゆずりぼん)」と呼ばれる家康の書物類約3千点が尾張徳川家に譲られたことを契機に形成されました。その後、歴代藩主による収集や、2千点を超える古地図・絵図などが加わり、幕末にはおよそ5万点にのぼったと推定されます。江戸時代を通じて、尾張藩の御文庫は質・量ともに我が国有数の大名文庫として発展しました。

明治維新後の混乱期には蔵書の約3分の1が流出しましたが、残った蔵書に尾張藩の役所や別邸の蔵書、さらに旧藩士の旧蔵書などが加わりました。こうして受け継がれた蔵書を基に、昭和10年(1935)、名古屋の徳川美術館開館と同じ年に、19代当主徳川義親(よしちか)が東京目白に設立したのが「蓬左文庫」です。戦後は名古屋市に移管され「名古屋市蓬左文庫」となりましたが、現在に至るまで14万点もの貴重な書物類を伝えています。
名品4 未来へ託す文化――近代の購入品、寄贈品

関東大震災や世界恐慌などをきっかけに、経済的に困窮した旧大名家は大名道具を売立(オークション)に出しました。本来であれば武家の誇りとして大切に継承されるはずの品々が散逸する様子を目の当たりにした19代義親は、売立品を購入すると同時に、尾張徳川家の大名道具を散逸させないための手段として、徳川美術館の設立を決意します。昭和10年(1935)の美術館開館後は、名古屋の豪商、岡谷家をはじめとする篤志家による寄贈品も加わり、徳川美術館の1万件を超えるコレクションが形成されています。
徳川美術館・蓬左文庫の開館90周年を記念して、その文化継承の歩みとともに紹介する秋季特別展「尾張徳川家 名品のすべて」は、2025年9月13日(土)~11月9日(日)の期間、徳川美術館で開催されます。