“忘れられたモダニスト”の現在地

教え子の活躍と違い、杉山本人の没年や経歴は不詳の部分が多いのが実情です 。しかし残された研究原稿や図版集、門下生の証言をつなぐと、彼が①自由教育、②東アジア工芸の学際研究、③国際市場をにらんだ輸出デザイン戦略――三つの領域で先駆けとなったことが浮かび上がります。

日本デザイン史を語る際、しばしばバウハウス帰朝組や民藝運動が脚光を浴びますが、杉山豊桔のようにアジア諸国の工芸をモダンデザインへ翻訳しようとした個人は見落とされがちです。『あんぱん』をきっかけに、その足跡を学術的に再検証する動きが進むことを期待したいところです。

杉山豊桔は「自由を教える教師」であると同時に、「日本と世界を結ぶデザイナー」でもありました。彼の教えは学生の個性を伸ばすだけでなく、日本デザインが国際舞台へ飛躍する布石となったのです。もし今、銀座の街角で“ワッサワッサ”と口ずさむ声が聞こえたら、それは杉山豊桔が蒔いた自由の種が、時空を超えて芽吹いている証しなのかもしれません。

杉山豊桔の存在は、現代日本のデザインや文化に深く関わっていた。