
大河『べらぼう』蔦屋重三郎・瀬川・鳥山検校、それぞれの「夢噺」と「苦悩」を回想しつつ考察【後編】:3ページ目
「蔦重はわっちにとって光でありんした。」
その言葉に、腹を括った瀬川は花魁時代の昔の廓言葉に戻ります。そこにいるのは瀬以ではなく、男前の5代目花魁瀬川でした。
「仰せの通りでござりんす。」「蔦重はわっちにとって光でありんした。あの男がおるならば、吉原に売られたことも悪いことばかりではない。ひとつだけはとてもいいことがあった。そう思わせてくれた男にござりんした。」
「重三を斬ろうがわっちを斬ろうがその過去を変えることはできんせん。」
と今までの取り繕ったような態度は捨てて、思い切り本音を語ります。さらに、そんな自分の態度が検校をいつも傷付けていることも誤るのが、察しがよく正直な瀬川らしいところ。
「主さんこそ、わっちをこの世の誰より大事にしてくださるお方。人の心を察し過ぎる主さんを、わっちのいちいちが傷つけているということも」。
暗闇の中で孤独を感じていた鳥山検校自身にとって、この瀬川のセリフは胸に響いたことでしょう。
彼自身が瀬川と出会い、彼女が「光」だと感じ、一緒に暮らすうちに自分のことだけを想い人生に寄り添ってくれるという「夢」を見ていたのですから。
やっと瀬川の本心は聞けたけれど「夢」は叶わぬまま
地位も名誉もお金も手に入れているのに、どうしても手に入らない瀬川の心。
瀬川を大切に想う気持ちは分かってくれていたけれど、抱いてもらえるのは「感謝の気持ち」であって「男として愛してくれる」のではないことがはっきりと分かってしまいます。
検校の持っている小刀を胸にあて、自分の言葉を信じられぬなら「わっちの心の臓を奪っていきなんし」と泣きながら訴える瀬川を呆然と見つめる鳥山検校。
二人が一緒になって、初めて瀬川の本音、本心を聞くことができたものの、瀬川の心から蔦重を追い出し自分だけにしたいという夢は「もはや叶わない」と諦めたようにも見えました。
次回、ドラマでは幕府による当道座の厳しい取り締まりを受けて、検校と瀬川は捕まってしまいます。
もしその一件がなければ、やっと本音をぶつけ合えた夫婦として二人の距離は縮まったのではないか、辛い自分の人生に「光」や「夢」を与えてくれた相手を忘れられないという瀬川の蔦重に対する想いは、そのまま検校が瀬川に感じている想いなので、折り合って寄り添って暮らせるのではないかなど、いろいろと考えてしまいます。
これから、蔦重・瀬川・鳥山検校の夢や苦悩が、どう変化してくのか見守りたいと思います。