戦前にもあった食品偽装事件。高級料理「カレー」が国民食となった驚きの理由とは?
「高級西洋料理」だったカレー
カレーは今や日本人にとって国民食と言えるほど親しまれていますが、その歴史は意外にも波乱に満ちていました。実は、日本でカレーが国民食になるまでには、日本初の食品偽装事件を経なければならなかったのです。
その事件とは、1931年(昭和6年)に発覚したC&Bカレー粉偽装事件と呼ばれるものです。今回はこの事件の内容と起きた背景、そして日本のカレー文化に与えた影響を解説します。
まずは事件の背景を見ていきましょう。当時から、カレー粉はインドの料理に欠かせないスパイスでしたが、実はもともとカレー粉というものはインドにはなく、イギリスの発明品です。
イギリス人がインドのカレー料理を再現するために発明したカレー粉は、19世紀にイギリスのクロス・アンド・ブラックウェル社(以下C&B社)が最初に商品化しました。
この会社は高品質な食品を提供することで有名でした。 そのため、イギリス産のカレー粉は品質や味が高いとされており、日本でも最高級品として流通していました。
こんな背景もあって、当時はカレーというのは高級西洋料理として認知されていたのです。
価値が低かった国産のカレー粉
一方、日本で初めて発売された国産のカレー粉は、1905年(明治38年)に大阪の薬種問屋「今村弥」が開発したものでした。
この会社は、インドから輸入されたスパイスを使って、日本人の味覚に合わせたカレー粉を作りました。
しかし当時の日本では、先述の通りカレーは西洋料理として認識されており、イギリス製のカレー粉こそが本物だというイメージが強くありました。
そのため、国産のカレー粉は、C&Bカレー粉に比べて劣っていると見られていたのです。
そんな中で起きたのが、C&Bカレー粉偽装事件でした。
これは東京の食品卸売業者が、C&B社の缶に国産の安価なカレー粉を詰め替えて販売していたことがばれて、警視庁に摘発されたというものです。
この業者の手口は、空っぽのC&B社の缶に国産のカレー粉を入れて再び封をするというものでした。偽装はかなりの長期間にわたって行われていたようです。