もう「姫若子」とは呼ばせない!初陣で覚醒した戦国大名・長宗我部元親の武勇伝:2ページ目
武勇を奮い、潮江城を攻略
一 元親公永濱ヱ御着舩ノ時秦泉寺豊後ト申物出合若殿ハ何トしテ御越候哉沙汰ノ限ニテ候ト申元親公被仰ケルハ又一念ニ掛けタル戦場ニ頓死スル條不及是非元親父ノ爲教養敵ト死ヲ共ニセン維然末鑓ノ突様ヲ不知教玉へト仰ラレケレハ其時豊後申様敵ノ眼ヲ突給ヘト申眼ヲ突ハツス時ハト仰ラレケレハ豊後重而申ハ眼ヲ突心持ニテ突ト申ケル元親仰ニハ偖大将ハ先へ懸ル哉後ニ行哉ト守玉ノ此時豊後申ハ大将ハ不懸不迯物也ト申シ元親得心し玉ケリ其比十八歳也弥三郎元親ト申時永濱初陳也
※『長元物語』より
こうして槍の使い方と大将の心構えを伝授された長宗我部元親。しかし程なく戦闘が再開されると、元親は秦泉寺豊後の教えを忘れたのか、槍を奮って敵中に殴り込んでしまいます。
味方300騎に対して敵は1,000騎。劣勢の中で闘志に火がついた元親は、たちまち敵2名を突き殺し、さらに太刀を抜いて1名を斬りました。
やがて元親らは70余りもの首級を上げ、その勢いに怯んだ敵方が兵を退きます。
「よし、このまま潮江の城(うしおえ。原文では湖江之城)へ乗り込むぞ!」
勢いづいた元親が命じると、老臣たちは口を揃えて諫めました。
「お待ち下され。古来『勝って兜の緒を締めよ』とはまさにこのような状況。勢いに驕ってはなりませぬ!(勝テ甲ノ緒ヲしムルトハ加様ノ時節也暫相待玉ヘ)」
ましてこちらは少数、もし敵が潮江城に立て籠もっていれば、とても攻略などできません。ここはいったん引き上げて態勢を整えてからでも遅くない……しかし元親はあえて進軍を命じます。
「案ずるな。既に物見を出しておる。すでに城はもぬけの殻じゃ」
果たして潮江城に到着すると、既に敵は残っておらず、元親たちは労せず城を乗っ取りました。
「これは何ゆえ……(何思召此山城ヘ御懸リ給)」
いぶかしむ老臣たちに、元親は答えます。
「先ほど戦った折、潮江からは兵が出てきておらなんだ。味方が押されていても兵を出さぬということは、既に出す兵がおらぬか、あるいは我らと戦うつもりがないかのいずれかであろう。どのみち我らに抵抗する意思も力もなきゆえ、城を乗っ取ろうと決めたのじゃ」
なるほどそこまでお見通しとは……すっかり感服した老臣たちは、元親の慧眼を褒めたたえたということです。