坂東武者の鑑・畠山重忠(中川大志)を射止めた愛甲季隆とは何者だったのか【鎌倉殿の13人】:2ページ目
富士の巻狩で、頼家の初獲物をナイスアシスト
さて、そんな具合に弓の名手として評判を高めた愛甲季隆にとって、大きな見せ場の一つとなったのが富士の巻狩り。
頼朝が自慢の嫡男・万寿(演:金子大地。源頼家)をお披露目する一大イベントで、万寿が初めて鹿を射止めたナイスアシスト賞に輝くのです。
(大河ドラマでは、万寿が一矢も当たらず「いつか自分の手で仕留めてみせる」と悔しい展開でしたが、実際にはちゃんと自力で鹿を射止めました)
富士野御狩之間。將軍家督若君始令射鹿給。愛甲三郎季隆本自存物達故實之上。折節候近々。殊勝追合之間。忽有此飲羽云々。尤可及優賞之由。將軍家以大友左近將監能直。内々被感仰季隆云々……
※『吾妻鏡』建久4年(1193年)5月16日条
「若君、ようございますか。狩りでも戦さでも、獲物を射止めるのは物逢(ものあい)……何と言いましょうか、自分と相手の呼吸や間合いのタイミングが何より大事にございますれば……」
故実に長けた季隆は万寿に段取りを教え、巧みに鹿を追い込むことで見事な成果を上げることが出来たのです。矢は深々と飲羽(いんう。矢羽根まで獲物の体内に刺さるほどしっかり刺さった)の勢い、これでこそ武門の男児よと頼朝も大喜び。
「でかした三郎。やはりそなたは天下に無双(ならびな)き弓の達者……あのな。こんな事を言うのは、そなただけじゃからな?」
とまぁいつもの調子でこっそり伝え、頼家の初獲物を山の神様に奉げる矢口の祭りでも矢口餅の二口(山の神様に餅を奉げる二番手≒本日のMVP第2位)を務めます(一番手は工藤景光でした)。
せっかくなので矢口餅の作法も。まず蹲踞の状態から三色の餅(それぞれ長さ八寸≒24cm×幅三寸≒9cm×厚さ一寸≒3cm)を一枚ずつとって左から赤・白・黒と並べ置き、これを下から白・赤・黒と取り重ねてから左側の倒木(他のもので代用可)に置いて山の神様へ供えます。
続いてこれら三枚の餅をまとめて三寸の方から中央・左角・右角と一口ずつかじってから、矢叫びの声を上げました。これは戦さで矢を射た手応え(敵に命中など)があった時、箙(えびら。腰に装着する矢ケース)を叩きながら叫ぶのです。
こうして儀式が終わると頼朝から鞍付きの駿馬とお下がりの直垂(ひたたれ。武士の平伏)を与えられ、そのお礼として駿馬や弓矢・行縢(むかばき。狩猟用の下半身保護具)・乗馬沓など狩猟セットを万寿に献上しました。
「え、お下がり?新品をあげればいいのに……」と思うかも知れませんが、かつて頼朝のお下がりをめぐって岡崎義実(演:たかお鷹)と上総介広常(演:佐藤浩市)が殺し合い寸前の大喧嘩を繰り広げたこと(残念ながら大河ドラマでは割愛)を思えば、季隆にとってこの上ない名誉となったことでしょう。