まずは、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第7回あらすじより。
「佐殿は天に守られています。現に何度も命を救われています。そしてその運の強さに引かれて、多くの者が今、集まってきています」
(中略)
広常は、頼朝の運試しを思いつく。大庭景親が差し向けた長狭常伴という男が、今夜、頼朝の宿を襲う。頼朝が天に守られているというなら助かるだろう。
※「鎌倉殿の13人」第7回あらすじより。
石橋山の合戦で敗れ、安房国へ逃れた源頼朝(演:大泉洋)が再起を期するため上総介広常(演:佐藤浩市)に加勢を要請しました。
その使者となった北条義時(演:小栗旬)に対して、広常が考えついた運試しが、長狭常伴(ながさ つねとも)の襲撃。
大河ドラマでは頼朝と敵対する大庭景親(演:國村隼)の刺客となっているこの男、史実ではどういう人物なのでしょうか。
今回は『吾妻鏡』などの史料から長狭常伴の生涯をたどってみたいと思います。
襲撃事件の黒幕は?
長狭常伴は生年不詳、通称は六郎。安房国長狭郡を支配していた豪族で、江戸湾を隔てて相模国の三浦一族と対立していました。
『平家物語』では長寛元年(1163年)に三浦一族の杉本義宗(すぎもと よしむね。和田義盛の父)に攻められるもこれを撃退。
この時の戦さ傷が元で義宗は翌年に亡くなっており、和田義盛(演:横田栄司)にとっては父の仇とも言える存在です。
治承4年(1180年)9月3日、上総介広常に支援を求めるべく出立した頼朝を闇討ちするべくその宿所を襲撃するも、その動きを事前に察知していた三浦義澄(演:佐藤B作)らによって返り討ちにされてしまいました。
以上で大河ドラマ的にはクランクアップ(撮影終了≒本人は退場)ですが、話はまだ続きます。
長狭常伴には姉妹がおり、彼女は上総の大豪族である伊西常景(いさい つねかげ)に嫁ぎました。
この常景、実は上総介広常の長兄に当たり、広常は長狭常伴と無関係ではありません。
むしろ常景が弟の印東常茂(いんとう つねしげ)に暗殺された時、遺児たちを常伴が保護していることから、上総・長狭両氏の密接な関係がうかがわれます。
大河ドラマでは大庭景親が差し向けたことになっている常伴の襲撃事件、実は広常が黒幕だったのかも知れません。
「源氏の棟梁を自称するボンクラが、生意気にも臣従せよと言うて来おった……どれ、一つ小手調べと行こうかい」
運よく生き延びれば考えてやらんでもないし、死んでしまえば手間が省けてちょうどいい……と思ったかどうだか、この「運試し」を頼朝や義時たちはくぐり抜けます。