不倫許すまじ!武士道バイブル『葉隠』が伝える夜這い男と妻への復讐エピソード:2ページ目
もう半刻ばかりも待ったでしょうか、すっかりお楽しみ終えた間男が「また来るよ」とか何とか吐(ぬ)かして家から出て来たところ、武士はバッサリと斬り捨てました。
「ただいまー」
血に濡れた刀を引っさげて帰宅した夫の様子に異変を察した妻は恐れおののきますが、武士は何食わぬ顔で言います。
「我が家に盗人が入っておったので、斬り捨てた……ダメではないか、戸締りはしっかりせんと、な!」
そう言って、武士は渾身の怒りで壁をブチ抜いて破壊。米俵を一つ立てかけ、盗人の入った証拠を作った上で、奉行所へ斬捨御免を届け出たのでした。
「……まったく物騒ですな」
「えぇ。あいにく拙者が不在で、たった『一人』で在宅していた家内はどれほど怖かったことであろうか……可哀想に。もう心配は要らぬぞ」
「……はい」
奉行所の検分が無事に終わり、斬り捨てられた間男は盗人として処分されることとなりましたが、よもや妻もその斬殺死体が自分の愛人だったとは言えず、黙っているよりありません。
「こんなに震えて涙を流して、本当に怖かったのだな。おぉよしよし……」
妻の真意を知りながら、表向きあえて優しく慰めてやった武士でしたが、それから間もなくして妻に三行半を突きつけ、無事に離縁したのでした。
「理由はそなたの胸に聞け」
「……はい」
あぁスッキリ、これでめでたしめでたし。
終わりに
一九 何某密夫を切り候事 何某何方へ参り、夜更に罷り帰り候處、何方の者忍び入り、女房と密通仕り候を見合はせ、密夫を切り伏せ申し候。さ候て壁を破り、米一俵立てかけ置き、筋々へ盗人を切り留め候由申し出で、見分の上別條なく相済み申し候。程過ぎ候てより、女房に暇差し出し、始終仕果せ候なり。金丸氏咄。
※『葉隠』第九巻より
【意訳】
とある武士が夜更けに帰って来たところ、怪しい男が自宅に忍び込み、妻と不倫をしていたので、間男を斬り捨てた。
そして壁をブチ抜いて米俵を置き、これを盗み出そうとした泥棒を斬ったという筋書きで関係各所へ届け出て、現場検証の上で斬捨御免が認められた。
やがて妻も離縁して問題は解決した……と、金丸氏の話しである。
これが金丸氏の実体験なのか、あるいは金丸氏からの伝聞なのかは定かではありませんが、いざ不倫の現場を目前にしたらついカッとなってしまいそうですが、そこまで冷徹に対処できたのは、やはり平素の心がけがモノを言うのでしょうか。
不倫に限らず、何事においても冷静に対処できる精神を、現代の私たちも見習いたいものですね。
※参考文献:
- 古川哲史ら校訂『葉隠 下』岩波文庫、2011年12月