遊郭で生まれた恐怖の風習!?「指切りげんまん」から読み解く人類文化の秘密:2ページ目
「愛の証に小指を切断」はどこまで本当か?
……という話を聞くと、あまりにも重すぎて、聞いているこちらも気が重くなりますね。しかしこれは一種の都市伝説の可能性が高いです。当時の絵や戯曲で「小指を切るのは愛の誓いの証」という“考え方”は登場するのですが、では本当にそういう行為が慣習として定着していたのかというと、それを示す証拠はありません。
むしろ当時の文芸作品に登場する「指切り」のお話は、おふざけ、冗談、演技ばかりです。例えば寛政3年の『九替十年色地獄』には、指を切ろうとしている遊女の姿が描かれていますが、文章をよく読むと「ついでにこのち(血)ででき合のきしやうを二三枚かいて……」などと言っています。
「きしやう」とは起請文のことで、男女が心中する時に誓いの言葉を書いて血判を押し、神社に納めるもの。「ついでに」という言い草には緊張感が感じられません。江戸時代には小指の模造品が出回っていたという話もあり、本当に小指を切る遊女というのは多くはなかったのではないでしょうか。
ただ、責任の証として指を切断するという習慣は、別の世界には存在しますね。そう、ヤクザの「指詰め」です。これなどは、生活や身分が遊女と近い博徒に「指切り」の考え方が伝わり、これがその後もヤクザの慣習として受け継がれたと考えられています。
ですから、「本当に指を切る奴なんているわけないだろ」と一笑に付すこともできません。ちょっと話が広がりますが、ニューギニアのダニ族の女性は、家族が亡くなると指を切断し、苦しみや痛みを死者と分かち合う風習があるそうです。身体の一部を愛情や責任の証として捧げるという考え方は、世界共通の文化なのでしょう。