今でもあなたを…身分違いの悲恋を引き裂かれながらも互いを想い続けた平安貴族のエピソード:2ページ目
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東国へ駆け落ちするも……引き裂かれた二人の悲恋
七十六
昔、ニ條の后の、まだ春宮の御息所と申しける時、氏神にまうで給ひけるに、近衛府にさぶらひける翁、人ゞの禄たまはるついでに、御車よりたまはりて、よみて奉りける。
大原や小鹽の山もけふこそは神代のことも思ひ出づらめ
とて、心にもかなしとや思ひけむ、いかゞ思ひけむ、知らずかし。※『伊勢物語』より
……この翁の正体は「体貌閑麗、放縦不拘(※ハンサムで優雅、そして自由奔放…『日本三大実録』より)」と謳われた貴公子・在原業平(ありわらの なりひら)。
17歳という歳の差(※)ながら、惹かれ合って東国へ駆け落ちするも、藤原一族の追手に捕まり引き離されてしまったのです。
(※)業平は天長2年(825年)生まれ、高子は承和9年(842年)生まれと言われています。
その関係ゆえに高子は清和天皇への入内(じゅだい。天皇陛下と結婚し、内裏へ入ること)が遅れてしまいましたが、入内の後も、互いにあの時の思いが忘れられなかったのでしょう。
言わぬが花とは言うものの、言わでおかれぬ思いもあります。これで思い残すことなく道を別った二人は、それぞれの人生を歩んでいったのでした。
※参考文献:
- 大津有一 校注『伊勢物語』岩波文庫、2014年5月
- 鈴木琢郎『古代日本の大臣制』塙書房、2018年10月
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