日本人は”劣等人種”?明治時代、国際結婚による「人種改良」を主張した井上馨:2ページ目
大事な娘を西洋人の妾にできるか?
ある日、枢密顧問官を務めている鳥尾小弥太(とりお こやた)が井上の元を訪ねます。
「む、何の用だ……?」
日ごろ自分のやることなすこと批判してくるので敬遠していた小弥太が、わざわざやって来るなんて……いぶかしむ井上の緊張をほぐすように、小弥太は笑いかけました。
「貴公は条約改正のため日夜尽力され、近ごろは人種改良にも心血を注いでおられるとのことで、誠に敬服の限りである。
そんな貴公の一助になればと人種改良の妙策を思いついたのであるが、良かったら聞いてはくれまいか?」
「ほぅ、その策とは?」
何と、人種改良に反対するかと思ったら、献策までしてくれるなんて……やっと自分を理解してくれたのか、と少し嬉しくなってきた井上を、小弥太は怒鳴りつけます。
「簡単だ!まずは貴様の娘を西洋人の妾(めかけ)にしろ!それから日本全国の娘たちを片っ端から西洋人の妾にするのだ!そうすれば紅毛緑眼、鼻の尖った子供が生まれるだろう!出来るものならやってみろ!」
これを聞いた井上は小弥太の真意を覚って二の句が継げず、以来、人種改良の主張は尻すぼみになっていったのでした。
男性が「結婚」と言う時、往々にして「男性が相手の女性を娶る」ことをイメージしがちです。
この時の井上もまた「自分たちが西洋女性を娶る≒妾にする」ことを考えていたのでしょうが、相手(西洋女性や、その家族)の立場になってみれば、誰が好き好んで大事な娘を「劣等人種」なんかに嫁がせたいものでしょうか。
どうしても「人種改良」がしたいと言うなら、こちらから大事な娘を西洋人に差し出さねばならず、またこちらは「劣等人種」ですから、正式なパートナー・妻ではなく「妾に置いていただく」必要があるでしょう。
「人種改良の第一号として、お前の娘を西洋人の妾にしろ」
そこまで言われて初めて、井上はみんなが人種改良に反対する理由を理解したのでした。
終わりに
とかく政治家というものは自分を特権階級とでも思っているのか、その施策に際して他人事な態度をとることが多いようです。
だから民意とかけ離れた政策がしばしば打ち出されるのでしょうが、井上馨にしても「自分も日本人=改良の対象である劣等人種」などとは微塵も思わず、「劣等な日本人どもに、高貴な西洋人の血を入れてやろう」とでも考えたのでしょう。
それにしても、西洋には西洋のいいところがあるように、日本にだって日本のいいところがあるのに、それに気づかず「ないものねだり」ばかりしがちな日本人の習性は、今も昔も変わりません。
どの国も人種も民族も、誰もが誇り高く生きられて、公平・公正な友好関係を築ける社会の実現には、まだまだ長い道のりがあるようです。
※参考文献:
井上馨侯伝記編纂会 編『世外井上公傳 第三巻』内外書籍、1934年3月
小林よしのり『ゴーマニズム宣言SPECIAL 大東亜論 巨傑誕生篇』小学館、2014年1月