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どうして法律は「~してはいけない」と書かないの?中世の武士と現代人で大きく違うその理由

どうして法律は「~してはいけない」と書かないの?中世の武士と現代人で大きく違うその理由

「時トシテ何(いか)ニ腹立事アリトモ、人ヲ殺害スヘカラス(すべからず)」

※北条重時『六波羅殿御家訓』より。

法律ではありませんが「いいからどんなに腹が立っても、人を殺してはダメなんだ!」という問答無用っぷりです。現代人にしてみれば「(人を殺してはダメなんて)そんな事は当たり前だ」と言いたくなるでしょうが、当時はよほど殺人が多かったのでしょう。

諍(いさか)いあれば斬りかかり、侮辱されれば斬りかかり、気に入らなければ斬りかかり……何なら酒に酔っても斬りかかるというアウトローっぷりは、そのエピソードに事欠きません。

こんな連中ですから、殺すなと言っても殺してしまうため、きちんと法律にも刑罰が定められており、鎌倉幕府の基本法『御成敗式目(ごせいばいしきもく)』では殺人について死刑もしくは流刑、加えて全財産没収というペナルティが課せられています。

ちなみに、殺人については連座制(連帯責任)がとられていたようで、明らかに無関係であることが立証できない限り、共犯として同等程度の刑罰が科せられました。

Q.なぜ「人を殺してはいけない」と法律に書かないのか?

A1.現代:そんなの「当たり前」だから
A2.中世:そんなの「書いたところでムダ」だから

結局「人を殺してはいけないよ」という禁止ではなく「殺したらペナルティを課すからね」という法律の趣旨は一緒ですが、現代と中世ではその動機が大きく異なるのでした。

時代によって、やっている事は同じでも、その価値観は大きく違う……こういう差を楽しむのも、歴史を学ぶ醍醐味だと思います。

※参考文献:
石井進ら『中世政治社会思想 上』岩波書店、1994年2月
勝又鎮夫ら『中世の罪と罰』講談社学術文庫、2019年11月
細川重男『頼朝の武士団 将軍・御家人たちと本拠地・鎌倉』洋泉社、2012年8月

 

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