皿と命のどっちが大事だ!天下の御意見番・大久保彦左衛門に意見した一心太助:2ページ目
大事な皿を割ってしまい……
さて、頃は江戸のはじめ、第三代将軍・徳川家光(とくがわ いえみつ)の時代。大久保彦左衛門の屋敷にお仲(なか)という女中が奉公しておりました。
このお仲、何でも真面目で一生懸命なのはいいのですが、そそっかしいのが玉に瑕(きず)……という訳で、お約束のように大事なお皿を割ってしまいます。
それが例によって8枚1セットの高級なヤツで、その価格と言ったら、盗んだら首が飛ぶとも言われる5両はゆうに超えたでしょう。
「お殿様、どうかお許し下さいませ……!」
泣いて謝るお仲でしたが、彦左衛門は許せません。
「これはさる方よりの頂きもので、家宝とも思っておった大切な皿……おのれ、ただでは済まさぬ!」
今にも刀の柄に手をかけそうな勢いでしたが、そろそろ登城の時刻が迫っていました。
「いかん、急がねばならぬ……よいか、此奴は戻りしだい即刻手討ちと致すゆえ、断じて逃がすな!」
「ははあ」
哀れなお仲は座敷牢に閉じ込められ、彦左衛門が将軍様の御用で出かけていきますと、彦左衛門の草履取りをしていた太助がお使いから帰ってきました。
「何だって!?……よぅし、おいらに任せておきな」
事情を聞いた太助は、どうにかお仲を助けるべく一計を案じ、帰って来た彦左衛門を出迎えます。
「ん……太助か、その包みは何じゃ?」
太助は抱えていた風呂敷包みをほどくと、お仲が1枚割ってしまった高級お皿セットの残り7枚が出てきました。
「そなた、いったい何を!」
ニヤリと笑った太助は、その内の1枚を勢いよく地面に叩きつけ、木っ端微塵に割ってしまいます。
「……あ……」
彦左衛門が呆気にとられる中、次々と皿を割って最後の一枚。
「これで見納めだ……全部割っちまえば、むしろ清々(せいせい)するだろうぜ!」
天高く両手に持った皿を、渾身の力で地面に叩きつけようとしたところ、正気に返った彦左衛門が制止します。
「やめろーっ!」
「……あ」
タイミング悪く、皿は(太助の懐に飛び込んできた)彦左衛門の額に直撃。彦左衛門は卒倒してしまいました。